逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 その影が消えてもしばらくそのままでいた。
 小さな紙切れには書き切れない事態になっている。詳細を報告するために自分も一旦帰るべきだろうか。

 しかし目の前には不可解なことが山積みだ。
 ソフィーらが言う『向こうの洞窟の怪我人』とはどういうことだろう。

 デイズに聞いてみた。
「向こうのだって?」
 彼はおどろいて聞き返してきた。
「い、いや何でもない。気にするな」

 ソフィーは『向こうの洞窟の存在をこっちのみんなに知られたら厄介だ』とも言っていた。なにか深い事情がありそうだった。

「なあ、デイズ。こんな洞窟はまだいくつもあるのか?」
「洞窟が幾つあるのかって?」
 デイズがヴェンに問うた。
「そりゃお前、太古からある洞窟だ、水が侵食してあちこちに空間が出来ている。そこらを掘れば幾らでもあるだろうよ」
「・・ああ」

 デイズは『向こうの存在』を知らないのだ。たぶん他の負傷兵もだろう。
 話してみるべきだろうか。いや、それはまだしない方がいい、何となくそう思えた。

 ピタ、ピタ、ピタ・・。
 辺りに落ちる水滴が、思い出したように音を立てている。


            * * * * *

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