逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
暗部の足音
「馬鹿者がっ! お前はどうしていつもこうなんだ」
 王都のケイネの屋敷に怒鳴り声が響いた。

「ラクレスの娘を連れて来いと言っただろうが。それを途中で手放しただと? なぜ死に物狂いで引っ張って来なかったのだ」

 ギースはうらめしげに見上げると、
「し、しかし父上、突然出てきた酔っ払いは何人もいたんだ。だから俺一人では・・」

「酔っ払いだと! 相手はたかが平民だろうが。なぜこっちが弱腰になってしまうのだ」
「・・・・」
 ギースは黙り、その片頬がゆがんだ。

 この父は、あの国境で我慢できず逃げるように帰って来たのだ。
 そんな自分の落ち度を棚に上げて。

 胸のうちに、そんな憎悪がこみ上げてきた。
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