逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「それよりも退職式だ。式典はあのアーロン・ハインツの分も一緒に行おうと思ってな」
「・・は? アーロンの誕生日はまだ半年も先でございますが」

「いや、お前たちは長年の盟友であろう? お前は執務で、アーロンは軍でと分野は違うが、いっそ合同でやったらどうだ。賑やかな式典になると思わないか?」
 名案だとばかり笑っている。

 シュテルツは頭を掻いた。アーロンには聞かせたくない。
『まだ半年の任期があるのに退職式だとっ?』

 怒った顔が目に浮かぶ。
『退職式を済ませてあとの指揮をどうやって執れというのだ。それとも退職式と同時に司令官の職も退けというのか』

 そもそも、王はそこに気付いているのだろうか。
 成り行き任せに合同退職式を敢行して、あとの体制がどうなるのかを・・。

 バッハスとの懸念が増大している。そんなときに軍のトップの交代などあり得ない。
 アーロンの代役ができる人物がこの国にいるとでも言うのか。

 シュテルツは黙り込み、
「・・ああ。もういいぞ、アーロンには私から言おう。シュテルツ、お前は宰相の引継ぎを準備しておいてくれ」
「・・さようで、ございますか」

 重い足取りで謁見室を出た。

『賑やかな式典になるだとっ、バカも休み休みに言え!』
 怒り狂うアーロンが目の前に浮かんだ。


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