逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 駐屯地に帰って来たとき、のっぽは一人の兵に会った。
 彼はこれから王都へ向かおうとしていた。

「なんだ、こんな時間に伝達便か?」
 もう日は暮れようとしている。
「そうなんだ。なんでもケイネ隊の宿舎の増築について急ぎの指示があるらしいんだ。それをもらいに行ってくるよ」

「そうか、ご苦労なことだな」
「ああ、彼らが来てから余計な仕事が増えて困ったものだ」
 と言ってから、慌てて口を押えた。
「ああ、クワバラクワバラ、どこで奴らが聞いているかわからないからな」

 のっぽはアハハと笑って、
「それじゃ、気をつけて行って来いよ」
 伝達兵の後姿を見送った。さてと、宿舎に向かう。

 彼は、昼間拾った紙切れのことはすっかり忘れていた。

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