逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 執事と相談してラクレス邸と周辺の民家に振り分けて看護した。

「それが、屋敷の回りに不審な男が現れるようになったのです」
「不審な男?」

「昼となく夜となく中を窺っているのです。庭に入り込み、ついに鍵を壊して侵入しました」

 負傷兵を見回っていたとき見知らぬ男が現れた。
 とっさに叫び声をあげた。

 男が睨みつけソフィーも鋭く見返す。

 先に目を逸らしたのは向こうだった。
 さっと背を向けて走り去った。

「やはりバッハスの手の者ということか」
「恐らくそうだろうと。それで賊は分かったと思います、部屋に抵抗する兵がいないのを」

「だが屋敷を守っている警護兵はいたのだろう。彼らがやすやす中へ通したというのか」

 いくらなんでもラクレス領主の屋敷だ、警護は何をしていたのか。

「あの紛争で大勢が怪我をして送り帰されました。国境ではその補充兵が必要だったのです。だから警護は僅かになっていました」
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