逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ラクレス隊は騒然としていた。

 昨日からラクレス公がいないのだ。彼ばかりでなく側近の四人も姿が消えていた。まるでかき消すようだった。

『いったいどうしたというのだ、無断で外出する公ではないはずだ』
『・・その、奥様の葬儀に出席したいとおっしゃっていたそうですが?』
 五日前にラクレス夫人が死去している。

『ああ、それならそうかも知れないな』
 皆がうなずいた。

『しかし、おとといは出席しないとおっしゃっていなかったか?』
『ああ。しかし直前になって気持ちが変わられたのかも知れない。なにしろ喪主はまだ若いあのソフィー様だからな』
『・・そうかも知れないな。だとしたら明日か明後日にはお帰りになるだろう。それまで・・』
 公の不在を伏せておこうとした。

 現場を預かる指揮官が持ち場を離れることは特異なことだ。やむを得ぬときは上奏して許可を得る、それが軍の鉄則だった。
その手続きがされてない。表ざたになったら公の立場が悪くなるのは必至だ。

 しかし三日、四日と経っても公は帰って来なかった。

 時間が過ぎるごとに事態が重くなり、隊員は追い詰められていく。

 しかし、それを追求する立場にあるケイネ伯の行動も謎だった。
 なぜかラクレス公の不在を王宮に報告しなかったのだ。


           * * * * *


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