逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
託されたふみ
 東の方角に王宮が見える。
 いくつもの塔に朝日が射し込んで光っている。あそこで三十余年を費やしてきたのだと思った。

 アーロンは侍女にかしずかれて出仕の支度をしていた。

 このグリントールでは五十歳になると退職する決まりがある。それがあと半年後に迫っていた。ほろ苦い笑みが湧いてくる。

 コツコツ、コツコツ・・。ふいに窓から音がした。

 駆け寄ってそれを開ける。
 一羽の鳩が窓枠からアーロンを見ていた。
 ヴェンが放ったあの伝書鳩だった。

【過日のバッハス侵攻時の負傷兵多数が山の洞窟で治療。別件で負傷したデイズも同じく。ソフィー嬢が彼らを看護。追ってまた報告】

 鳩の小さな足にはそんな文が付けられていた。

 アーロンが瞠目した。 


          * * * * *
< 77 / 479 >

この作品をシェア

pagetop