逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 彼は遠ざかって行く馬車を見て、
『なんだぁ、あの馬車は』

『あ、あの、屋敷の執事が辞めたのよ。だから彼を見送りに出ていて』
 全身が汗ばんだ。

『ああ、この家もおしまいだな。残っている侍女も僅かなんだろう』
『ええ、そうね』
 目を逸らさずギースを見る。

 彼は威嚇するような嗤いを浮かべると、
『今日は、例の密書をもらいに来たんだ』
『み、みっしょって、なんですか』
『白状しろよ、例の密書を持っているんだろう』
 その目が異様に光っている。

『知らないです、そんな密書など』
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