逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 目を開けると、淡い影が入ってきた。

 ろうそくが近づいていた。
 先頭は長身の男、その後ろにヴェンが従っている。                         

「誰だ、あれは」
 負傷兵が身構えた、男の来訪などめったにないからだ。

 明りに照られたのは壮年の騎士だった。
「見たことがない面体だな」

 男が近づいた、その容貌がはっきりわかる。

 と、一人の老兵が目を丸めた。
「あれは!」
「あの男を知っているのか」

「あの男だと? バカやろう、あの方はハインツ閣下だ」
「ハインツ閣下だって」

「そうだ、国軍の最高司令官のアーロン・ハインツ様だ」
「ええっ!」
「俺も一度しか見たことはないがな」
 ラクレス公の供をして王宮に行ったとき顔を合わせたのだと言った。

「忘れる訳はないんだ、あの眼光、威厳、一目見たら焼き付いてしまうご仁だよ」
「だったら、そんな方がどうしてこんな洞窟に来ているんだ」
「そんなこと分るもんか、本人に聞いてくれ」
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