石ころ令嬢は愛を知って光り輝く【1話だけ部門】
「―――やっと見つけた」
そのアイスブルーの瞳は、私をとらえて離さない。
「……君の名前は?」
心臓は、静まることを知らないように騒ぎ続けていた。
「……クレール・ハントリーです……」
「クレール、か……」
私の名前を、反芻するように繰り返す。
少し伏せられた長い睫毛までも白銀に染まったその人。
これまでに見た誰よりも綺麗なその人の瞳には、“石ころ”の私が映っている。
そのことが恥ずかしくなって、思わず俯いた。
「リュカ様」
やがて従者と思われる人がやって来て、その人を呼んだ。
(……リュカ様と、いうのね……)
まともに名前を聞き返していなかったことを思い出す。
けれどもうきっと、私なんかが関わることはないだろうから。
込み上げる名残惜しさには気づかないフリをして、彼らを見送るために頭を下げた。
「クレール。また会おう」
予期せぬ言葉に、目を見開く。
私が言葉を返すよりも早く、リュカと呼ばれたその人は、従者と共に背を向けて去っていった。
(“また”があるの……?)
ただの別れ際の挨拶に過ぎないと……そう分かっているはずなのに。
私はいつまでも遠くなっていくその人の背中を見つめていた。
しかし、再会の時は時を経たずして訪れた。
「申し訳ありません……今、何とおっしゃいましたか?」
父が顔を引き攣らせながら、目の前に座るその人に尋ねた。
「貴殿のご息女、クレール嬢に結婚の申し込みをさせていただきたい」
そうはっきりと言い切ったその人は、アイスブルーの瞳で私たちを見据える。
(まさか、こんな形でまた会えるなんて)
談話室にて、横並びに座る両親とローザが驚愕に目を見開く。
一瞬静まり返った空気の中、ローザがどうしてと声を上げた。
「そんな……どうして“氷の貴公子”様がお姉さまに……!?」
氷の貴公子と呼ばれたその人こそ―――あの庭園で出会ったリュカ様だった。
以前、噂で聞いたことがあった。
ウィリアーズ公爵家現当主、リュカ・ウィリアーズは誰もが目を奪われる絶世の美男である。
しかし人を寄せ付けず、言い寄ってくる女性には絶対零度の瞳を向けて退けるのだという。
そんな彼についた呼び名が―――“氷の貴公子”なのだと。
(……まさか公爵様だったなんて……)
雲の上の存在に近いようなその人が、この屋敷にやって来て、私に結婚を申し込みたいのだという。
「お、恐れながら……何かの間違いではないのですか?」
母が微かに震える声で言う。
「お前、失礼だろう。
しかし……貴方ほどのお方となれば、相手はたくさんいるのでは……?」
父も信じられないと言わんばかりの表情だ。
両親の言う通りだと思った。
こんな私が選ばれるなんて、そんなことある訳がないと。
(だって私は……)
そんな時、リュカ様と目が合った。
リュカ様は私を安心させるように、絶対零度と呼ばれたその瞳を柔らかく細めた。
「間違いでも何でもない。
―――彼女は私の“リンク”なんです」
「な……っ」
「はあ……!?」
両親とローザが、揃って驚愕の声を上げる。
(……私が、この人のリンク……?)
この世界のどこかには、ジュエルとコレクター、互いにとっての運命の相手が存在するという。
しかし出会えることは稀で、御伽話のように扱われることもある。
巡り合った2人は非常に深い愛情で結ばれるとされる―――それが“リンク”だ。
「そんなの嘘よ!
だって……ほら!」
「いた……っ」
隣に座るローザが、慣れた手つきで私の前髪を掴んで持ち上げる。
「こんな石ころみたいに見窄らしいジュエルが、公爵様のリンクだなんてありえませんわ!」
私のジュエルを目にしても、リュカ様は表情を変えなかった。
「ね?
だから後悔する前に……」
しかしローザに対しては、不快そうに眉を寄せる。
「今すぐその手を離せ。
彼女が痛がっている」
低い声で言い放つリュカ様。
その瞳こそ、まさに絶対零度にふさわしいものだった。
ローザがビクッと肩を揺らし、手を離す。
その場が静まり変える中、リュカ様が口を開いた。
「ひと目見て、彼女は私の運命であると分かりました。
他人に興味を持てなかった私が、初めて心の底から欲しいと思った」
リュカ様は、真っ直ぐに私だけを見つめている。
「それが君なんだ、クレール」
ひと目見た時、どうしようもなく胸が高鳴った。
嬉しくて少し怖くて、私が私でなくなるような感覚。
失った半身を見つけたように、離れたくないと思った―――この想いを、運命と呼ぶのなら。
「どうか私と結婚してくれないか」
その運命を、信じてみたい。
「……はい」
私が頷けば、リュカ様は嬉しそうに微笑んだ。
そのアイスブルーの瞳は、私をとらえて離さない。
「……君の名前は?」
心臓は、静まることを知らないように騒ぎ続けていた。
「……クレール・ハントリーです……」
「クレール、か……」
私の名前を、反芻するように繰り返す。
少し伏せられた長い睫毛までも白銀に染まったその人。
これまでに見た誰よりも綺麗なその人の瞳には、“石ころ”の私が映っている。
そのことが恥ずかしくなって、思わず俯いた。
「リュカ様」
やがて従者と思われる人がやって来て、その人を呼んだ。
(……リュカ様と、いうのね……)
まともに名前を聞き返していなかったことを思い出す。
けれどもうきっと、私なんかが関わることはないだろうから。
込み上げる名残惜しさには気づかないフリをして、彼らを見送るために頭を下げた。
「クレール。また会おう」
予期せぬ言葉に、目を見開く。
私が言葉を返すよりも早く、リュカと呼ばれたその人は、従者と共に背を向けて去っていった。
(“また”があるの……?)
ただの別れ際の挨拶に過ぎないと……そう分かっているはずなのに。
私はいつまでも遠くなっていくその人の背中を見つめていた。
しかし、再会の時は時を経たずして訪れた。
「申し訳ありません……今、何とおっしゃいましたか?」
父が顔を引き攣らせながら、目の前に座るその人に尋ねた。
「貴殿のご息女、クレール嬢に結婚の申し込みをさせていただきたい」
そうはっきりと言い切ったその人は、アイスブルーの瞳で私たちを見据える。
(まさか、こんな形でまた会えるなんて)
談話室にて、横並びに座る両親とローザが驚愕に目を見開く。
一瞬静まり返った空気の中、ローザがどうしてと声を上げた。
「そんな……どうして“氷の貴公子”様がお姉さまに……!?」
氷の貴公子と呼ばれたその人こそ―――あの庭園で出会ったリュカ様だった。
以前、噂で聞いたことがあった。
ウィリアーズ公爵家現当主、リュカ・ウィリアーズは誰もが目を奪われる絶世の美男である。
しかし人を寄せ付けず、言い寄ってくる女性には絶対零度の瞳を向けて退けるのだという。
そんな彼についた呼び名が―――“氷の貴公子”なのだと。
(……まさか公爵様だったなんて……)
雲の上の存在に近いようなその人が、この屋敷にやって来て、私に結婚を申し込みたいのだという。
「お、恐れながら……何かの間違いではないのですか?」
母が微かに震える声で言う。
「お前、失礼だろう。
しかし……貴方ほどのお方となれば、相手はたくさんいるのでは……?」
父も信じられないと言わんばかりの表情だ。
両親の言う通りだと思った。
こんな私が選ばれるなんて、そんなことある訳がないと。
(だって私は……)
そんな時、リュカ様と目が合った。
リュカ様は私を安心させるように、絶対零度と呼ばれたその瞳を柔らかく細めた。
「間違いでも何でもない。
―――彼女は私の“リンク”なんです」
「な……っ」
「はあ……!?」
両親とローザが、揃って驚愕の声を上げる。
(……私が、この人のリンク……?)
この世界のどこかには、ジュエルとコレクター、互いにとっての運命の相手が存在するという。
しかし出会えることは稀で、御伽話のように扱われることもある。
巡り合った2人は非常に深い愛情で結ばれるとされる―――それが“リンク”だ。
「そんなの嘘よ!
だって……ほら!」
「いた……っ」
隣に座るローザが、慣れた手つきで私の前髪を掴んで持ち上げる。
「こんな石ころみたいに見窄らしいジュエルが、公爵様のリンクだなんてありえませんわ!」
私のジュエルを目にしても、リュカ様は表情を変えなかった。
「ね?
だから後悔する前に……」
しかしローザに対しては、不快そうに眉を寄せる。
「今すぐその手を離せ。
彼女が痛がっている」
低い声で言い放つリュカ様。
その瞳こそ、まさに絶対零度にふさわしいものだった。
ローザがビクッと肩を揺らし、手を離す。
その場が静まり変える中、リュカ様が口を開いた。
「ひと目見て、彼女は私の運命であると分かりました。
他人に興味を持てなかった私が、初めて心の底から欲しいと思った」
リュカ様は、真っ直ぐに私だけを見つめている。
「それが君なんだ、クレール」
ひと目見た時、どうしようもなく胸が高鳴った。
嬉しくて少し怖くて、私が私でなくなるような感覚。
失った半身を見つけたように、離れたくないと思った―――この想いを、運命と呼ぶのなら。
「どうか私と結婚してくれないか」
その運命を、信じてみたい。
「……はい」
私が頷けば、リュカ様は嬉しそうに微笑んだ。