石ころ令嬢は愛を知って光り輝く【1話だけ部門】
「君って妹とは似ていないよね」
そう言って、私のことをまじまじと見つめてくる男性。
(……どうしてこんなことに……)
その男性―――ローザの婚約者となったジョセフ・クリード様が我が家に現れたのは少し前のこと。
どうやらローザとの約束の日時を間違えてやって来たようだ。
ローザは街に出ており、しばらく戻りそうもなかった。
ジョセフ様はせっかくだからとローザの帰宅を待つことを選んだ。
「ねえ君、ちょっと付き合ってくれない?」
そこにたまたま通りがかった私。
暇つぶしとして、私はジョセフ様の話し相手になることになったのだった。
「まぁ似ていないとはいえ……君も顔自体は悪くないけどね」
談話室で向かい合ってソファに座る私たち。
品定めをするかのようなジョセフ様の視線に、居心地の悪さを感じる。
ローザが気にいるだけあって、整った顔をしている。
しかしどことなく滲み出る軽薄な雰囲気が、私は苦手だった。
「夜な夜な男と遊んでばっかいるんだろ?」
(……ローザが流した嘘の噂の一部ね)
もう、反論することさえ諦めてしまった。
ジョセフ様は席を立ち、私のすぐそばまでやって来ると、グッと顔を近づけた。
「なら俺とも遊んでよ。
もちろんローザには内緒でね」
私はすぐに首を横に振った。
「……そんな、できません……っ」
ジョセフ様はものともせず、私を押し倒す。
そして自分もソファに乗り上げた。
「ちょっとくらいならバレないって。
それに君も、この俺と寝られるなんて光栄だろ?
どうせそのジュエルじゃろくな貰い手もないだろうし」
嘲りの瞳と、荒い息。
恐怖で体が震える。
「……やめてください……!」
その時乱暴に部屋の扉が開かれて、誰かが入ってくる。
「ちょっと、何しているの!?」
「ロ、ローザ!
違うんだこれは、君の姉が誘惑してきて……っ」
怒りの形相で入室してきたローザを見て、慌てて飛び退くジョセフ様。
ローザは一直線にこちらへやって来ると、勢いよく手を振り上げた。
次の瞬間、頬に感じる痛み。
「この淫乱!!
石ころの分際で、なに人の男に手を出そうとしてんのよ!!」
怒号と共にローザは何度も私の顔を打ち、体を蹴りつけた。
「そんなつもりは……ぁ゛っう……」
振ってくる暴力の嵐に、体を丸めることしかできない。
「ローザ、さすがにそれ以上は……」
慄いたようなジョセフ様の様子に、ようやくローザの動きが止まる。
「……気分が悪いわ。移動しましょう」
ローザが吐き捨てるように言って、ジョセフの腕を取ると歩き出す。
「絶対に許さないから」
最後に私を憎らしげに睨みながらそう呟いて、ローザはジョセフと共に立ち去っていくのだった。
あれから数日後。
私は王家が主催するパーティーに参加していた。
王家が関わるものには、余程の理由がない限り不参加は許されない。
けれど―――。
「あなたのような穢らわしい女が、よく顔を出せたものね」
その言葉と共に、頭上から降り注ぐ冷たい液体。
グラスを空にした目の前の令嬢は、怒りと蔑みの目で私を見下ろしている。
「まさか妹の婚約者を体で誘惑しようとするなんて」
「男好きの悪女っていうのは本当だったんだな」
人々の囁く声と、刺さるような視線。
そして、令嬢に囲まれて慰められているローザ。
またローザが吹聴したのだろう。
この会場で、私は誰からも歓迎されていなかった。
体を濡らしたまま、私は会場を出た。
とにかく人目のない場所へ行きたくて、たどり着いた先は庭園。
どうして、こんな人生なのだろう。
(全部、全部私がみすぼらしい石ころだから?)
足音が聞こえて、涙で滲む瞳で顔を上げる。
透き通るような白銀の髪。
深いアイスブルーの瞳が私をとらえる。
私の前に現れたのは―――目を見張る程に美しい男性だった。
重なった視線を逸せすことができない。
心が沸き立つような感覚と、激しく動き出す鼓動。
どこか冷たさを纏うその人が、雪が溶けて花が咲くようにふわりと笑う。
「―――やっと見つけた」
これが、私の運命を変える出会いだった。
そう言って、私のことをまじまじと見つめてくる男性。
(……どうしてこんなことに……)
その男性―――ローザの婚約者となったジョセフ・クリード様が我が家に現れたのは少し前のこと。
どうやらローザとの約束の日時を間違えてやって来たようだ。
ローザは街に出ており、しばらく戻りそうもなかった。
ジョセフ様はせっかくだからとローザの帰宅を待つことを選んだ。
「ねえ君、ちょっと付き合ってくれない?」
そこにたまたま通りがかった私。
暇つぶしとして、私はジョセフ様の話し相手になることになったのだった。
「まぁ似ていないとはいえ……君も顔自体は悪くないけどね」
談話室で向かい合ってソファに座る私たち。
品定めをするかのようなジョセフ様の視線に、居心地の悪さを感じる。
ローザが気にいるだけあって、整った顔をしている。
しかしどことなく滲み出る軽薄な雰囲気が、私は苦手だった。
「夜な夜な男と遊んでばっかいるんだろ?」
(……ローザが流した嘘の噂の一部ね)
もう、反論することさえ諦めてしまった。
ジョセフ様は席を立ち、私のすぐそばまでやって来ると、グッと顔を近づけた。
「なら俺とも遊んでよ。
もちろんローザには内緒でね」
私はすぐに首を横に振った。
「……そんな、できません……っ」
ジョセフ様はものともせず、私を押し倒す。
そして自分もソファに乗り上げた。
「ちょっとくらいならバレないって。
それに君も、この俺と寝られるなんて光栄だろ?
どうせそのジュエルじゃろくな貰い手もないだろうし」
嘲りの瞳と、荒い息。
恐怖で体が震える。
「……やめてください……!」
その時乱暴に部屋の扉が開かれて、誰かが入ってくる。
「ちょっと、何しているの!?」
「ロ、ローザ!
違うんだこれは、君の姉が誘惑してきて……っ」
怒りの形相で入室してきたローザを見て、慌てて飛び退くジョセフ様。
ローザは一直線にこちらへやって来ると、勢いよく手を振り上げた。
次の瞬間、頬に感じる痛み。
「この淫乱!!
石ころの分際で、なに人の男に手を出そうとしてんのよ!!」
怒号と共にローザは何度も私の顔を打ち、体を蹴りつけた。
「そんなつもりは……ぁ゛っう……」
振ってくる暴力の嵐に、体を丸めることしかできない。
「ローザ、さすがにそれ以上は……」
慄いたようなジョセフ様の様子に、ようやくローザの動きが止まる。
「……気分が悪いわ。移動しましょう」
ローザが吐き捨てるように言って、ジョセフの腕を取ると歩き出す。
「絶対に許さないから」
最後に私を憎らしげに睨みながらそう呟いて、ローザはジョセフと共に立ち去っていくのだった。
あれから数日後。
私は王家が主催するパーティーに参加していた。
王家が関わるものには、余程の理由がない限り不参加は許されない。
けれど―――。
「あなたのような穢らわしい女が、よく顔を出せたものね」
その言葉と共に、頭上から降り注ぐ冷たい液体。
グラスを空にした目の前の令嬢は、怒りと蔑みの目で私を見下ろしている。
「まさか妹の婚約者を体で誘惑しようとするなんて」
「男好きの悪女っていうのは本当だったんだな」
人々の囁く声と、刺さるような視線。
そして、令嬢に囲まれて慰められているローザ。
またローザが吹聴したのだろう。
この会場で、私は誰からも歓迎されていなかった。
体を濡らしたまま、私は会場を出た。
とにかく人目のない場所へ行きたくて、たどり着いた先は庭園。
どうして、こんな人生なのだろう。
(全部、全部私がみすぼらしい石ころだから?)
足音が聞こえて、涙で滲む瞳で顔を上げる。
透き通るような白銀の髪。
深いアイスブルーの瞳が私をとらえる。
私の前に現れたのは―――目を見張る程に美しい男性だった。
重なった視線を逸せすことができない。
心が沸き立つような感覚と、激しく動き出す鼓動。
どこか冷たさを纏うその人が、雪が溶けて花が咲くようにふわりと笑う。
「―――やっと見つけた」
これが、私の運命を変える出会いだった。