『苦しめてごめん・・』―消せない過ちを悔いる日々―
 以前いた会社の最寄り駅周辺に立地する居酒屋だった。 

 一か八かの賭けだった。

 自分と縁の切れた根米がこの店に今も来ているのか、定かではない中での待ち。


 果たして・・二日に一度の割合で店に通ったのだが三回目で釣れた。
 

 しかもうまい具合に根米はひとりだった。

 俺は根米が店に入って来るのを横目に知らない振りで酒を飲んだ。
 


 あんな修羅場があったというのに彼女は俺を見付けると親し気に話し掛けてきた。

 これで『いける』と俺は思った。
 


 その日から同じ居酒屋で根米の仕事終わりを待って一緒に酒を飲むようになり
一ヶ月もするとすっかり打ち解けて昔のような甘い雰囲気になった。

 ただし、そう思っているのは彼女だけだがな。




「平日飲みで会うだけじゃなくて、たまには休日にドライブにでも出かけますか」



「わぁ~神尾くん連れてってくれるんだ。行くー行くー、絶対行くわぁ~。
早速今週とか?」


「いいよ、俺はいつでも。絶賛ニート中だからね」


 こうして俺たちはドライブに出掛けることになった。


 美しい紅葉が見られる季節でもなく寒いだけのドライブなのに
はしゃいで喜ぶ根米に醒めた上から目線の俺がいた。


 待ち合わせの駅に着いた俺は予てより準備していた氷点下でも暖かい
極寒OKなダウンを着込んで根米を待った。


 ズボン下にはヒートテックの下着も履いてきた。


 少し遅れて車の前に現れた根米の装いは真冬にしては軽装だった。


 自宅から駅まではそう距離はなく、後は電車、車というルートな為、
お洒落重視な装いにしたのだろうけれど。


 おれにとっては好都合だった。

 根米がシートに座ると俺は言った。


「ごめん、今シートベルト故障中なんだ」


「あぁ、大丈夫よ。それに私、神尾くんの腕信じてるしね」


 待ち合わせは食事時を外し午後からにしていたので
そのままドライブへと車を走らせる。


 俺が何度か下見していた道だ。
 

 計画通り俺は故意に山道のカーブで車を思い切りぶつけた。


 自分もろとも車ごとカーブ下の崖目掛けて真っ逆さまに落ちる可能性もあったのに。



『きゃっ』という悲鳴と共に助手席の根米だけが開いたドアからぶっ飛んでいった。




 車はギリギリのところで踏ん張った。

 幸運の女神は今のところ俺に微笑んでいるようだった。


 俺は急いで車を反転させ元来た道に戻りもう一度同じカーブのところまで
そろそろと進んだ。


 そして俺も崖下に向けて車を進めた。



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