『苦しめてごめん・・』―消せない過ちを悔いる日々―
 販売所(スーパー)は本社のある自社ビルから少し離れており、
スーパーのスタッフならいざ知らずよもや事務の人間にふたりでいるところを
目撃されていたとは痛恨のきわみ。

気をつけないと。


 だけど最悪自分たちの関係が皆の知れるところとなっても、
自分は独身なのだし相手も独身。

何の問題もない。


 むしろ公認の仲になれれば結婚の可能性も出てきて逆に自分にとっては
好都合かもしれない。


 懸念点があるとすれば今の段階で言葉にして彼からまだ交際を申し込まれては
いないこと、プロポーズされていないことだろう。


 だが自分の美貌に自信のある根米はそこのところはさほど心配してはいなかった。

 というのも、神尾といい仲になってから毎週のように、しかも仕事帰りではなく
わざわざ休日の土曜に逢瀬を重ねていたからだ。


 ただし、ただの一度も神尾から誘われるということはなく、この一点のみが
不満といえば不満だった。


 ・・と言いながら、こちらが誘えば彼が断わることはただの一度もなく
根米はかなりふたりの関係性に自信を深めているのだった。

 



◇転勤とパワハラ


 春になり一時的に寒が戻ってきたものの、そのあとすぐに春らしい暖かで
穏やかな風が吹きはじめた頃、俺は1日付で本社に赴任してきた。


 元々が地方の支店採用で本社行はないという中でのこちらへの転勤は、
しぶしぶながら3年という約束でやって来た。


 地元で採用された時には転勤はないと言われていたのに、何の前触れもなく
耳打ちすらない、いきなりの辞令だった。


 人事異動の内示が異動の10日前、辞令が3日前に出た。

 それは非常識きわまりないものだった。
 


 会社を辞めるという選択肢も考えたが今回は涙を呑んで転勤してきた。

 それなのにどこまでもついてないというか、直属の上司浅野一之係長43才が
理由(わけ)もなくその時の気分で無理難題を押し付けてくるパワハラ上司で
クソなヤツだった。

俺は鬱になりそうだった。


 着任したばかりでグチを(こぼ)せる相手もおらず2ヶ月足らずで
体重が5kgも落ちた。


 とばっちりを受けたい者などいないだろう。

 周囲は皆見て見ぬ振り。


 何もかも放り出して郷里に帰ろうか、何度もそう思いながら
何とか踏ん張っている俺に声を掛けてくれた者がいた。


 それが根米菜々緒だった。
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