放課後はキミと。
「おはよう、卯月さん」
あたしに卑しい目を向けて気味の悪い笑顔を浮かべていたその男子に、紗世もわずかに身構えていた。
「お、はよう⋯⋯」
挨拶を返すと、「なに、安田くん」と紗世が眉をひそめて問いかけた。
「クラスメイトなのに、そんな怪訝な顔しないでよー。ちょっとオハナシしたいだけじゃん」
安田くんはにやにやした顔のまま、あたしたちの方に身を寄せて、こう囁いた。
「卯月さんさあ、今度俺の相手もしてよ」
言っている意味が、理解ができなかった。
否、理解したくなかった。
「すごいんでしょ? そっちのテク。俺も一回試したいな」
なにこいつ。
身の毛がよだつ嫌悪感。
知らずに身をかばうように、自分を抱きしめてしまう。
「おいやめろって! 卯月は金積まなきゃやってくんねーぞ」
げらげらと聞こえた下品な笑いは安田くんと同じグループのヤツらで。
囁いたのだから聞こえないはずなのに。
何を言うかは事前に聞いていて、面白がっていってるんだ。
「そうそう。三万くらいもってかなきゃだめなんじゃねー? もしくはおじさんが相手じゃないとだめとか?」
なんせパパ活してるくらいだからなーなんて大声で。
顔から火が、出そうだった。
恥ずかしい。気持ち悪い。なにこいつら。
泣きたくない。こらえろ。
周囲はこちらを気にしてないようで、注目していることがいやでもわかる。
さっきまで騒がしかった教室がかすかに静かになっているからだ。
源さんたちをみると、クスクス笑いあってるのが見えた。
その状況が、あたしの羞恥心をさらに高める。
唇を噛み締めて、こぼれ落ちてきそうなものを必死に止める。
こんなやつらの前で泣きたくなんてない。
胸をはれ。あたしはなにもやましいことなんて、していない。
「ちょっと、あんたら……」
あたしと一緒に呆然としていた紗世は、次の瞬間には目を怒らせて反撃しようとしてくれていた。