悪女は破滅を身ごもる~断罪された私を、ヒロインより愛するというの?~

2 悪女は監禁される

「う……ん……?」

 頬に当たる柔らかな感触に、アヴリーヌは目を覚ました。うっすら瞼を押し上げていくと、波を描く金髪がぼやけた視界に映る。どうやら自分は髪を下敷きにして眠っていたようだ。

(眠って……? いいえ、私は断罪イベントの後に部屋から連れ出されて、それから……)

「……っ!」
 
 一気に覚醒したアヴリーヌは、弾かれたように体を起こした。
 見回せば四方を薄い垂れ幕に囲まれている。そこは天蓋の付いた豪華なベッドだった。その羽毛布団の上でアヴリーヌは横たわって――いや、気を失っていたらしい。
 幕を少しだけめくってみると、優美な内装と、一目で上等だとわかる調度類が見えた。おそらく貴族の寝室だろう。
 
(ここはどこ? 何故私はこんなとろに?)

 執務室から連れ出され、自室に向かっていたところまでは覚えている。兵士に左右を固められ、宮殿の渡り廊下を過ぎ、人気がなくなったところで急に兵士が――――

(そう、顔を布で覆われたんだわ!)

 鼻の奥がツンと痺れるような、濃厚なアルコール臭を嗅がされた気がする。その途端意識が遠ざかり、体中の力が抜けてその場に倒れた……ところで、記憶が途絶えている。

「私……もしかして、さらわれた、の?」

 呆然と呟くアヴリーヌ。
 パチパチ、と拍手の音が聞こえた。

「お目覚め早々理解するとは、さすがだよアヴリーヌ殿……いや、アヴリーヌ」

 聞き覚えのある声だった。甘さを含んだテノール、凜々しくも柔らかな青年の声。

「ジェイド……!」

 ベッドから少し離れた位置にジェイドがいた。肘つきの椅子に腰掛けていた彼は、立ち上がってゆっくりとでアヴリーヌに近づいてくる。先ほど剣を突きつけてきたのが嘘のように、彼の笑顔は晴れやかで親しみに満ちていた。
 見たことのない態度をとられ、逆に背筋が寒くなる。アヴリーヌは逃げを打とうと後ずさるが、ベッドは壁際にあり、逆に中へ追い込まれてしまった。

 ジェイドは幕を払ってベッドに乗り上げ、奥へ追いつめられたアヴリーヌにぐっと体を近づける。細めた瞳は、まるであふれでる愛しさにとろけたようだった。

「やっと貴女を手にいれられた。愛するアヴリーヌ」

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