『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで
ドリンクバーでイチゴオレを淹れていると、スッと横に来た匠刀が顔を覗き込んで来た。
「泣いてるかと思った」
「へ?」
「お前にしちゃあ、頑張ってる方じゃん」
ポンポンと優しく頭が撫でられる。
「俺と星川以外で普通に喋れる奴いないもんな」
「っ……」
病欠で休んでばかりだった私は、何をするにも出遅れて。
友達を作るのもクラスの輪に入るのも、いつも自力では無理だった。
幸いにも小学校の頃は匠刀が同じクラスだったこともあって、いつも匠刀が傍にいてくれたけど。
さすがに高校に入ってまで、匠刀を頼ったりはできない。
「帰りたくなったら合図して」
「……」
「ちゃんと連れ出してやるから」
だったら誘わないでくれたらよかったのに。
好きな人の幸せそうな顔を見るのは嬉しいけれど、私ではない人に向けた眼差しだ。
テーブルに戻ると、物凄い量のプチケーキが並んでいる。
「モモちゃん、好きなの食べてね」
「……ありがとうございます」
苦い薬漬けとも言える生活が長かったせいで、甘いものはご褒美のような特別な意味合いがある。
だから、もとちゃんがくれる一口チョコも、匠刀がくれるいちごみるくのキャンディーも嬉しいけれど。
テーブルを埋め尽くすほどのケーキの量に、桃子は言葉を失った。
「兄貴、さすがにこれは酷くね?」
「そーか?先輩がこれくらいなら食べれるって言うから」
「あっ、ごめんね、勝手に持って来ちゃって。私見た目通りに結構食べるから」
自嘲気味に笑う雫さんは、虎太くんが差し出したプチガトーを一口で食べてしまった。
あぁ、完敗だ。
こんな風に美味しそうに食べることすら、私にはできない。