心の中だけうるさい私はウチの坊っちゃんが可愛くて仕方ない
“ごめんなさい、ダメなメイドでごめんなさい”

「坊っちゃんは本番を、はじめての相手を大事にされると仰っていたのに、本命のご令嬢と本番をしなくちゃいけなかったのに」

 坊っちゃんのその意向を知っていたのに。

「嬉しくて、やめてって言えません……」

 ぽろぽろと溢れる涙。
 親に捨てられた時でさえ涙なんて出なかったのに、私は今まさに恩を仇で返しているというのに、喜びから涙が止まらない。


「俺のにしたいって言っただろ」
「11年前のあの日から、私は坊っちゃんのでした」
「これから先の未来も全部、俺のにしたいんだ」

“これから先……?”

「だから、その……、つまりそのっ、あ、愛してるって言ってるんだ!」
「愛、して……?」

 坊っちゃんの言葉を呆然としながら繰り返す。
 愛してる?私を?

「言質も取ったし、既成事実も作った、あとはイメルダの同意だけなんだが」
「私の?」
「俺と、結婚して欲しい」

 結婚、私が、坊っちゃんと?

 ぽかんとし、あんなに溢れていた涙がぴたりと止まる。
 お仕えしている主とメイドの私が結婚だなんて、そんなことあり得ないとわかっているのに。

 
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