【短編】夏空よりも眩しいきみへ
「……菖が来てくれたらいいなって、思ってたよ」
「……っ」
ヤバ。泣きそうかも。
目の奥が熱い、痛い。
「羽奈、俺さ──」
「ごめん!また昔みたいに菖に気を遣わせてしまいそうなこと言った!ほんとごめん!」
羽奈は、俺の言葉を遮ってそう言った。
やっぱり……あのこと気にしてた。
かなり時間が経っているのに、まだ未練タラタラな自分に嫌気がさしていたけれど、羽奈もちゃんと覚えていてくれたことが、正直嬉しい。
「いや、気とか……」
「私が言いたいのは、その、私は、菖の中身を、ずっと、ちゃんと見てるから、知ってるから」
なんで、羽奈が泣きそうに声を震わせてるんだよ。それじゃまるで……。
蝉の鳴く季節でよかった。
俺の心臓の音も、小さく上がっている息も、バレなさそうだから。