聖母のマリ子
 モンテヴェルディ王国初代国王グレゴリオ‥‥

 かつて大陸に数多く存在した国々を瞬く間に平定した彼の二つ名は『覇王』。三千年の歴史を越え今もなおその功績が語り継がれている。

 だがその裏に隠された彼の人生は、最後の最後までひと欠片の救いもないものだった。

 呪いの目的は強過ぎる執着を封じ込めることであり、愛情そのものをなくすという形でそれが出現したらしい。

 強過ぎる執着を封じ込めるための呪いはそれ以上に強力なものでなければならない。その影響は王族だけにとどまらず王国全土を覆い尽くし、それが放置されていれば王国は100年かからずに滅亡していたことだろう。

 それを三千年もおさえ続けた聖女の力もまた凄まじい。にも拘らず、聖女は呪いの浄化に失敗したのだ。

 そもそもの間違いは、神が聖女を『ミア』の姿で降臨させたことにある。それがグレゴリオにとってどれだけの苦痛を与えるものだったのかは計り知れない。常識的に考えてその采配はあり得ないだろう。神と人間では致命的な感覚の違いがあるとしか思えなかった。

 自らが遣わした聖女や聖母と呪いの原因である王族の婚姻は、神にとっては至極当然。本来ならば自身が与えた桃の属性の力で愛情は自然と芽生え、呪いが浄化されていくはずだった。

 だが愛情を増幅させただけでは浄化はうまくいかず、まさかの失敗という予想外の結果がもたらされたのだ。神の力を過信し過ぎたが故の取り返しのつかない失敗に、その後慎重に慎重を重ねた聖女が情報統制を行ったのは当然の結果かもしれない。

 大司教が肝心なことを何も伝えてこなかったのはこれが原因で、エドに桃の属性について話さなかったのも理由は同じ。

 聖母の使命を伝える夢のトリガーが妊娠だったことも、念には念を入れて自然な形で愛情を育ませようとした結果考えられたことなのだろう。

 想定外だったのは、聖女が『発情によって魔力が大量に放出される』という経験をせず、それ以外の者にもその兆候が現れなかったこと。

 こんな致命的な不具合あり得なくないか?と思う。せっかく愛情を育んでも『不足した魔力は精を魔力に変換して補う』ということに気づけなければ、多分私は永遠に妊娠できず、夢をみることはなかった。

 最悪それでも浄化はできていたけど、それはあくまで結果論である。もし私とエドが仮面夫婦になっていたら思うように浄化は進まなかっただろうし、それを次世代に持ち越したとしても、真実がわからないままでは同じことの繰り返しだ。

 この方法は最悪ではなくても最善ではない。

 聖女と聖母の降臨は神からの恩恵に他ならないが、あまりにも穴だらけである。
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