誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
1週間目の朝、
心菜が初日以来初めて蓮の病室に顔を出す。

「ご指名ありがとうございます。
精一杯、お世話させて頂きますのでどうぞよろしくお願いします。」
ぎこちない笑顔と、棒読みのセリフに堪らず蓮はハハッと笑った。

「売れないホステスみたいなセリフだな。」
そう言って心菜を揶揄う。

心菜は不服そうな目をして、

「どうして私を呼び出すんですか?
お陰で昨日から先輩達から睨まれ、好奇心の目で見られて、本当に仕事がやり難くなりました。」

そう訴えてくる。

「俺だって、仕事で手一杯の君を呼び出すつもりは無かったが、好奇な目に晒されて耐えきれなくなったんだ。」
と、負けずに蓮も抗議する。

「事務所のスタッフとか、彼女さんの1人や2人いなかったんですか?」

「彼女はいないし、事務所には死んでも頼りたくない。ついでに言えば、家族からは勘当されている。」

「こんなにおモテになられるのに…。」
心菜が信じられないと言う目で見てくる。

「…芸能人なんてそんなもんだ。」

心菜は何かを察したのか、それ以上は何も言わず、床に散らばった譜面を集め、ササっと綺麗にしたかと思ったら、

「差し入れです。」
と、箱を蓮に差し出して来る。

蓮は怪訝な顔をして差し出された箱を覗く。
中にはプリンの入ったビンが3つ入っていた。

「多分、いろんな方から差し入れは貰っていると思いますけど…
初日に、買い出しを頼まれたのに…拒んでしまって申し訳無かったと思って。
罪滅ぼしと言うか…なんというか…
私の気持ちが軽くなるのでもらって下さい。」
そう一気に言って頭を深く下げる。

「別に俺は気にしてないが…ありがとう。」

元々、言葉少ない蓮だから、気の利いた返事もろくに出来ず。

ただ、礼を述べるだけだったが、

「丁度腹が減ってたから一緒に食べるか?」
と誘ってみる。

心菜は思いがけない返答に驚き、一瞬固まる。

「食べたいのは山々ですが、食べる前にちゃんと仕事をさせて下さい。」

と、本来の看護師の仕事に戻り、蓮に体温計を渡し血圧を測り、ご飯を食べた量などの問診をする。

蓮はそれを大人しく受け答えしながら、なぜ彼女だとこんなにも、心が和らぐのだろうと不思議に思う。

「はい。朝のお仕事は一通り終わりました。
じゃあ、プリン食べましょうか。」

心菜がニコリと笑い、来客用のパイプ椅子を
蓮の近くに置き座るから、

「良いのか?」
思わずそう聞いてしまう。
確か、初日はプライベートはどうのと言っていたのに…

「師長からちゃんとオッケーを貰ってます。患者様が過ごし易いように環境を整え、出来るだけの要望を聞き応じる様にして下さい。と指示を頂きました。」

ふふっと笑って蓮を見る。

彼女の目はひたすら澄んでいて、何の計算も媚びも無いように見えるから、蓮は心底安堵した。
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