誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
病院に良い思い出は無い。

なのに、心菜は看護師になった。

入院中に、支えになってくれた看護師、歩ける様に一生懸命訓練してくれた医学療法士に、作業療法士。

そして、関わってくれた沢山の先生方。

辛くて苦しい入院の中で、両親を失って、
生きる気力も失った心菜が頑張れたのは、
そんな大人達が、見捨てず見離さず、根気良く付き合ってくれたからだと、今でも思う。

私は彼らのお陰で今、生かされている。

いつだってそう思って生きてきた。

恩返しがしたい。

私も誰がの力になりたい。救える命を助けたい。そう思って看護師を目指した。

その気持ちは今も変わらないけど…

気持ちだけじゃ、どうにもならない事もある。

星の無い空の代わりに、街中はキラキラとネオンで照らされて眩しいくらいだ。

屋上から街を見下ろし、現実に戻る。


ピーポーピーポーピーポー ……

そんな沈んだ心菜の気持ちなんて知る由もなく、容赦無く救急車はやって来る。

定時まで後、1時間…。

頑張ろう。

今は修行の時、失敗を重ねて覚えていくしか無い。

心菜は自分自身にそう言い聞かせ、気持ちを無理矢理奮い立たせる。
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