誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
嬉しそうに蓮が部屋に着いて来る。

「この部屋、結構気に入ってるんだ。このまま全部運べば良いんじゃないか?」

ソファに座りながら部屋を見渡す。

「冷蔵庫とか洗濯機とか要らなくなるし、2人で過ごすには狭過ぎるよ。
この際、断捨離しようかな。」
蓮にコーヒーを用意しながら心菜が言う。

「分かった。今週末には新しいマンションに引越し出来るように動くから、そのつもりで頑張って。俺も手伝う事があれば言ってくれ。」

蓮の手を煩わす訳にはいかないと、
「大丈夫。そんなにないから何とかなるよ。」
と焦り気味に言う。

「遠慮は不要だ。明日はまだ休みだから、服とかダンボールに詰めるくらい出来る。」

蓮は本気で手伝うつもりでいる。

「恥ずかしいから駄目です。自分でやります。」

焦るとどうしても敬語になってしまう。
慌てて否定も出来なくて、心菜は目線を逸らして忙しなく動く。

「今、敬語だったよな。」
蓮さんがニヤッと笑いながら近付いて来る。

「…もう、そのペナルティ辞めようよ。」
心菜は講義の目を向ける。

蓮は軽く口付けを落とし、近くの壁に持たれて心菜をじっと見てくるから、少し落ち着かない。

「何?そんなに見えられると動き辛いよ。」

「もう少し我慢したら、毎日この光景が見れるのかと思ったら感無量だ。
今夜はやるべき事を思い出したから、コーヒー飲んだら帰るよ。」

急にどうしただろうと心菜は首を傾げる。

「今、押さえている物件があるんだ。病院から10分もしないから通いやすいし安全だ。」

「私のお給料じゃ…。」
唇に指を当てられて言葉を遮られる。

「心菜に払わす訳ないだろ。身一つで来てくれたら良い。俺の我儘に付き合ってもらうんだから当然だ。」

「そんな風には…。私だって蓮さんとずっと一緒にいれたら嬉しいから。」
心菜が微笑む。

「約束する。心菜の仕事の邪魔はしないし、束縛するつもりもない。
ただ、帰る場所は俺の所であって欲しい。それだけなんだ。」

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