ファーレンハイト/Fahrenheit
第5章
#01 見上げる夜空
バーを出た後は優衣香を駅まで送り、改札口の向こうに姿が見えなくなるまで、俺は優衣香を見ていた。優衣香は何度も振り返って、俺を見て、手を振っていた。一ヶ月で三回も会えるなんて、今まで無かった事だからすごく幸せな気分だった。
だが、俺は優衣香の姿が見えなくなったら走り出した。
時刻は午後十時五十三分で、その時には既にジャケットの内ポケットに入れたスマートフォンが震えていた。画面を見ると相澤からたったが、俺は無視して、ただひたすらマンションに戻る為に走った。
クリスマスソングが流れる街中で、白と青の幻想的なイルミネーションが施された街路灯の下を歩く道行く人は、俺の姿を見て避けていく。心の中で詫びながら、俺は走った。
◇
十二月九日 午後十一時二分
――二分遅刻だ。クソッ、間に合わなかった。
マンションのリビングの扉を開けると、捜査員全員が俺を見たが、全員が目線を彷徨わせた。加藤ですら目を伏せた。何かと思ったが、一番奥にいる米田にまずは謝罪せねばと米田を見ると、米田がいない。いない代わりに、奴がいた。
――なんでチンパンジーがいるんだよ。
米田がマンションに来て会議をするからと全力で走って戻ったのになんでチンパンジーがいるんだよ。チンパンジーなら歩いて帰って適当に言い訳すれば済んだじゃないか――。
そんな事を考えながらチンパンジーの須藤に近寄って頭を下げた。「遅刻して申し訳ありませんでした」と言ったが、近くにいた武村の生唾を飲み込む音がした。他の捜査員の空気もいつもと違うものだった。チンパンジーの須藤も何かを言いたくて言い淀んでいる感じで、「いいよ、大丈夫だよ」と優しく言うが、俺はこの場の雰囲気が何なのか不思議に思った。
コートを脱いで、加藤の右隣にいる相澤の右に座ってから会議は始まった。相澤の視線を感じたが、俺はそれを無視して須藤の話に耳を傾けた。
だが、俺は優衣香の姿が見えなくなったら走り出した。
時刻は午後十時五十三分で、その時には既にジャケットの内ポケットに入れたスマートフォンが震えていた。画面を見ると相澤からたったが、俺は無視して、ただひたすらマンションに戻る為に走った。
クリスマスソングが流れる街中で、白と青の幻想的なイルミネーションが施された街路灯の下を歩く道行く人は、俺の姿を見て避けていく。心の中で詫びながら、俺は走った。
◇
十二月九日 午後十一時二分
――二分遅刻だ。クソッ、間に合わなかった。
マンションのリビングの扉を開けると、捜査員全員が俺を見たが、全員が目線を彷徨わせた。加藤ですら目を伏せた。何かと思ったが、一番奥にいる米田にまずは謝罪せねばと米田を見ると、米田がいない。いない代わりに、奴がいた。
――なんでチンパンジーがいるんだよ。
米田がマンションに来て会議をするからと全力で走って戻ったのになんでチンパンジーがいるんだよ。チンパンジーなら歩いて帰って適当に言い訳すれば済んだじゃないか――。
そんな事を考えながらチンパンジーの須藤に近寄って頭を下げた。「遅刻して申し訳ありませんでした」と言ったが、近くにいた武村の生唾を飲み込む音がした。他の捜査員の空気もいつもと違うものだった。チンパンジーの須藤も何かを言いたくて言い淀んでいる感じで、「いいよ、大丈夫だよ」と優しく言うが、俺はこの場の雰囲気が何なのか不思議に思った。
コートを脱いで、加藤の右隣にいる相澤の右に座ってから会議は始まった。相澤の視線を感じたが、俺はそれを無視して須藤の話に耳を傾けた。