ファーレンハイト/Fahrenheit
 午後二時五十四分

「ただいま戻りました」

 リビングの扉を開けた加藤と葉梨は、二人とも不機嫌な顔をしていた。加藤は狂犬ではないが、あまり見ないタイプの不機嫌な顔をしていて、俺も相澤も思わず後退りした。

「……おかえり」

 椅子に座っている山野の背後で、相澤はハンドサインを葉梨に送った。だが、それを見た葉梨が俺を見ないどころか目を彷徨わせている事を不審に思い、俺も山野の背後に回ると、相澤は首を傾げながら葉梨に送ったハンドサインを俺に見せた。

「バカ!」
「痛っ!!」
「葉梨、外」

 俺はそう言って、葉梨と外に出た。

 ――裕くん、そのサインは『マンションに戻れ』だよ。ここどこよ!? もう!
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