ファーレンハイト/Fahrenheit

#03 重なる心

 午後十時二十分

「おまたせ」
「うん」

 優衣香はこの前と同じ艶のある薄紫色のガウンとワンピースを着ている。風邪をひいていた時は綿のパジャマだった。
 優衣香はガウンを脱がずに掛布団を捲って俺の横に来て、横向きになっている俺の胸に顔を埋めた。
 右腕で優衣香の体を強く抱くと手のひらから伝わる優衣香の体は細くなっていたが柔らかさはあった。少しずつ、優衣香の温もりが伝わってくる。

「優衣ちゃん」

 仄暗いランプは優衣香を照らすが髪で影になってよく見えない。
 抱きしめたまま優衣香に体重をかけて仰向けにさせると優衣香は左腕を俺の首に回した。
 ランプに照らされた優衣香の瞳は俺を見ている。

「優衣ちゃん、好きだよ」

 恥ずかしそうに微笑む優衣香が可愛い。ついにこの時が来た――。

 唇を重ねると優衣香の舌が俺の唇をなぞった。舌が歯列を割って、口内に入って来て、俺の舌を求めている。
 優衣香の体の下にあった右腕を外し、左肩を押さえて耳を指先でなぞると、「んっ」と小さく呻いた。
 優衣香が求めるように舌を差し出すと、優衣香はそれを吸い上げた。唾液が絡み合う音が部屋に響く。
 優衣香の舌は甘く、柔らかく、温かい。

 首筋に舌を這わせ鎖骨の窪みを舐めると、優衣香は身を捩る。そのまま左胸へ舌を移動させ、ワンピースの上から先端を口に含んだ。
 優衣香は唇を噛んで、声を出さないようにしている。

 ――もっと、声を聞かせてよ。

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