仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
(だけど、お腹が空いていたのだから仕方がないわよね)

 でも、そう思いなおして自分を正当化する。

「……俺も、食べるか」

 彼が小さくそう呟いて、対面の椅子に腰かける。その姿を見て、芽惟はハッとして立ち上がる。

「お茶、入れますね」
「……どうも」

 冷蔵庫の中には、ここに来るまでに購入したお茶がある。二リットルのペットボトルを出して、コップを出す。

「というか、あなたはお茶飲まなかったんですね」

 敦也がフォークを出しつつ、そう言葉を投げかけてくる。

「まぁ、コンビニでお茶買って、その場で飲んじゃいましたから」
「へぇ」

 興味深そうな声を上げて、敦也がパスタに口をつけていた。その近くに、コップに入れたお茶を置く。

「……というか、芽惟さん本当に食べるの早いですね」

 彼がなんてことない風にそう言うのは、会話の方法を探っているからなのかもしれない。

 心の中でそう思いつつ、芽惟は苦笑を浮かべた。食べるのが早いのは、昔からだ。

「まぁ、そうですね。食べている時間があるのならば、仕事をしようって思っていたので……」

 企業のために、心身を削って働いてきた。

 敦也が援助をしてくれたので、その必要はなくなった。けれど。

(あれは、無駄じゃなかったのよね)

 きっと、芽惟があれだけ働かなかったら。企業は敦也が援助してくれるまで持たなかったかもしれない。そう、思う。
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