仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
(いいえ、出された条件が条件だし、血も涙もないのはある意味正解のはず。……うん、そう)

 けれど、それとなく芽惟を気遣ってくれているのはよくわかる。彼に告げたところで、きっと否定されるのがオチだろうが。

「って、あぁ、さっさと食べて片づけなくちゃ……」

 敦也が時計をちらちらと見ていたのは、出勤時間を気にしてのことだったのだろう。

 それを理解して、芽惟は慌てて食事を進める。

(せめて食器を片付けてから、お見送りしなくちゃ……)

 見送りなども、決して強制されてのものではない。芽惟自身が、彼を見送りたいと思っているだけだ。

 そこには打算も欲もなにもない。一緒に住んでいるのだから、せめてもの役目だと自負しているだけ。

 ……芽惟の勝手な思い込みだ。

「今日はこの後食材とか買い出しに行って……」

 その後は、荷解きでもしよう。……いつまでも段ボールが積みあがっている部屋では寛ぐのも難しいだろうから。

「そうだ。家に連絡とかも入れて……」

 芽惟はこの後の予定を慌てて頭の中で組み立てていく。

 ……今後の生活に不安がないとは言えない。だが、想像していたよりはいい生活になるような予感はしている。

 こういうときの芽惟の勘は、案外当たるものなのだ。
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