アラフィフママを溺愛するのは植物男子でした
「でもそれって、いい意味で捉えれば女として見られてるってことですよね」

 残業中に、三島さんが栄養ドリンクを飲みながら言った。

「えっ、やめてよ〜! もういい年したオバさんなのに! それに、あれはセクハラ一歩手前!」
「まあ、部長の件はそうですけど。でもチーフ、恋はしたっていいんじゃないですか?」
「ええ? そんな今更……」

 三島さんに言われて、帰り道に少し考えてしまった。
 だって、もうアラフィフよ? 社会人の娘がいるのよ?
 それに……亡くなった夫を忘れたわけじゃない。
 そりゃあ、彼は優しい人だったから、私が新しい恋をしたって、恨んで出てくることはないと思う。
 でも私自身が、人の好意をなんとなく恐れている。
 寂しい気持ちはあるけれど、それは娘が家を出て独りになったからで。
 ここ最近は、おひとり様も悪くない──なんて思っている。

「今日も、こんな時間か……」

 会社から自宅であるマンションまでは徒歩圏内だが、もうほとんどの店が閉まっていた。明るいのは、飲み屋とコンビニくらいか。人はまばらで、コツコツと自身のパンプスの音が聞こえるほどだった。
 帰路を歩いていると、スマホの着信音が鳴った。
 娘の(より)からだった。

「もしもし」
『お母さん、今日も生きてるー?』
「生きてるわよ。今、仕事終わったとこ。あんたは、何してたの?」
『お風呂入って寝るとこ。今日もお疲れ様』
「あんたもね、依。うん、じゃあ、お休み──」

 用件も手短に、通話を切った。
 依は、家を出てから毎日「生存確認だ!」と電話やメッセージを入れてくれる。我ながら、いい娘に育てたものだ。後は、生涯の伴侶を見つけてくれれば──なんて、気が早いか。
 依の声を聞いて心軽やかに歩いていると、まるでそれを嘲笑うかのように、パンプスのヒールがいきなり折れてこけた。

「いたっ! えぇ〜、もしかして寿命〜!?」

 長年連れ添ったパンプスが悲鳴をあげたようだ。ヒールは、根元からポッキリと折れている。
 こんな時間に靴屋なんて開いてないし、どうしようと途方に暮れていると……。

「そこのお嬢さん」
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