アラフィフママを溺愛するのは植物男子でした
えっ、お嬢さん!? 驚いて顔を上げると、着物姿の女性がいた。
シルバーグレーの髪を綺麗にまとめ、物腰優雅な女性だった。とても綺麗な人。どこかのバーのママさんだろうか……? 年齢を予測するなんて失礼かもしれないが、60代くらいに見えた。そのくらいの年齢の方から見れば、私はお嬢さんに見えなくもないのかな……? ちょっと、苦笑いを返すしかなかった。
「大丈夫ですか、歩けますか?」
「あ、はい。なんとか……」
私は、ヒールのある方の足に体重をかけて立ち上がった。
当然だが、高さがアンバランスで歩きづらい。
歩いて20分くらいなので、そのまま帰ろうとすると──
「待って。そのままじゃ歩きづらいでしょう?」
「ええ、でもすぐそこなので」
「ストッキングも破れているわ。良かったら、うちにいらっしゃいな」
半ば強引に、裏路地へと手を引かれた。
えっ、“うち”ってまさか、高級バーとかじゃないでしょうね!?
新手の客引きだったかと身構えたが、連れて行かれた先は、こじんまりとした花屋だった。
夜の闇の中、ライトに照らされた色とりどりの花たちが輝いて見えて、目の前がチカチカした。
花屋に着物姿って……。仕事しづらいでしょう、何故? と思っていると。
「どうぞ、そこに座って」
私の疑問などはよそに、女性は置いてあった丸椅子へと私を座らせ、奥から救急箱と靴を持ってきた。
ストッキングを脱ぐと、女性は怪我を手当してくれた。そして、先ほど持ってきた靴を足元へ置いた。普通の、女性もののスニーカーだ。
「私の娘のもので申し訳ないんだけれど」
「そんな、お借りするわけには……」
本当に、歩いて帰れる距離なので申し訳なかった。
しかし、女性はしゃがんだまま、寂しそうに私を見上げた。
「履いてくれた方が、娘も喜ぶと思うの」
まさか、娘さんの遺品……!?
私を娘さんと重ねていらっしゃる……!?
それなら、ますますお借りするわけにはいかないと思ったけど、女性があまりにも寂しそうな顔をするものだから、
「じゃあ……借りるだけ。後日お返ししますから」