神様の花嫁候補になりました!?
第4話 圧倒的な差
○水神様の邸宅。

和室内に、和子と黒美と水神様の3人が揃っている。
和子と黒美は横並びに座っていて、水神様がその前に座っている。

水神様「ついに、明日初めてのテストですね」

穏やかな表情の水神様。
緊張の面持ちの和子。
済まし顔の黒美。

水神様「テストの最後には僕も見学に行けると思います」
和子「み、水神様がテストを見に来るんですか!?」
水神様「もちろん。なにせ僕の花嫁候補が受ける、花嫁適正テストですから」

和子が緊張からゴクリと唾を飲み込む。
満面の笑みの水神様。

水神様「明日はとっても楽しみにしていますよ?」

☆☆☆

○学園内(調理室)。

テスト当日。
沢山の生徒たちが集まっている(全員和服。今は調理室にいるので割烹着などを着ている)。
生徒たちを取り囲むように30人ほどの先生がノートをペンを持って待機している。

女子生徒A「こんな中でテストを受けるの?」
女子生徒B「私、緊張しちゃう」
女子生徒A「でもほら、あの子に比べれば大丈夫じゃない?」

視線の先には緊張でガチガチになっている和子の姿。
横にいる黒美が呆れて和子の手を握る。

黒美「そんなに緊張しなくても、和子さんは私に勝てばいいだけです」
和子「……っ!」
和子(そんなことサラッと言わないでよねぇ!!)

女性の先生が前に出てくる。

女性の先生「それではこれより、花嫁適正テストを開始します。まず最初は料理!」

ドアが開いて次々と食材が運び込まれてくる。

女性の先生「制限時間は1時間。なにを作ってもよろしい。審査員はここにいる先生方、全員です。では、開始!」

わっと食材に駆け寄る生徒たち。
出遅れる和子。
なかなか食材にありつけず、残ったのは煮干しと味噌だけ。

和子「これじゃ味噌汁くらいしか作れない……!」

青ざめて料理開始。
すぐに完成して暇を持て余す中、黒美た鯛のお作りを完成させていくのを見て愕然とする。

そして1時間後。
和子と黒美の前にも審査する先生(男女1人ずつ)がやってくる。
先生(男)が、和子の味噌汁を見て怪訝な顔になる。

先生(男)「これはなんだね?」
和子「み、味噌汁……です」
先生(女)「具材がなにも入っていないようですね?」
和子「だ、だって! みんなが一斉に食材に群がるから、私の分がなくなっちゃったんです!」

つい大きな声になる和子に先生2人の眉が動く。

先生(男)「それは本当に他の人のせいなのかい?」
和子「はい、そうです! だって、あんな勢いで走って行かれたら誰だって……!」

途中で黒美が和子の腕を掴んで止める。
視線で促されて調理室の中を確認すると、弱姫が足を引きずっているのがわかる。

先生(女)「弱姫さんは昨日足を捻挫したそうです。それでも、食材はちゃんと手に入れていますね」
和子「……!」
先生(男)「具はなくても味噌汁の味は悪くなかった。でも、あなたの発言で減点になるかもしれない。なにせ君は神様の花嫁になるかもしれない人だ。自分の発言にも十分に注意しなさい」
和子「……はい」

うつむく和子。

☆☆☆

○学園内、調理室。

30分後。
先生たちの審査が終わって、発表が始まっている。

先生(女)「イワシ神様の花嫁候補、料理テストの勝者は弱姫さんです!」

わっと教室内に歓声が沸き起こり、弱姫は嬉しそうに頬を染めてうつむく。

先生(女)「続いて水神様の花嫁候補、料理テストの勝者は……黒美さんです!」

その結果にひときわ大きく生徒たちがざわめいた。
遅れて入学してきた黒美はそれだけでも注目の的だったし、見た目も美しく、テストも完璧ということで、花嫁候補たちの憧れの的だ。

女子生徒A「さすが黒美さんだわ」
女子生徒B「水神様の花嫁候補は決まったようなものね」
女子生徒A「和子さんがライバルだなんて、黒美さんもナメられたものだわ」
女子生徒B「ちょっと、和子さんに聞こえるわよ」
女子生徒AB「くすくすっ」

☆☆☆

○学園の広い廊下。

生徒たちが全員移動してきている。
生徒たちの横にはホウキ、ちりとり、バケツ、雑巾がそれぞれ準備されている。

先生(女)「それではこれから廊下掃除をしていただきます。制限時間は20分。では、開始!」

和子はせっせとホウキで埃を取っていく。
次にバケツに水を汲みに向かう。
そこで黒美と横並びになった。

黒美「その調子よ」
和子「黒美さんは余裕そうね」

和子は黒美へ敵対心を向けているが、黒美は驚いている。

和子「料理では黒美さんの圧勝だったけれど、今回は負けない」

黒美よりも先に準備を終えて持ち場へ戻る。
丁寧に廊下を拭き掃除していく和子。
最後の隅まで綺麗にして、手を止める。

先生(女)「はい、そこまで!」

先生の声を合図に立ち上がろうとしたとき、ふらついてしまう。
一瞬、水神様の邸宅の障子を破いたときのことが脳裏に浮かぶ。

和子(危ない!!)

咄嗟に障子に手をついてしまいそうになったとき、後ろから誰かが体を支えてくれる。

和子「あ、ありがとうございます」

そこに立っていたのは黒美だった。
なぜ自分を助けたのかわからなくて混乱顔になる和子に、黒美はいつもの笑顔を見せる。

先生(女)「では、廊下掃除の結果発表を行います!」

生徒たちに緊張が走る。
次々に勝者が発表される中、ついに和子たちの番になる。

先生(女)「水神様の花嫁候補、掃除テストの勝者は……」

和子は胸の前で手を握りしめてきつく目を閉じる。

和子(今回はうまく行ったはず!)
先生(女)「黒美さんです!」
和子(え――……)

愕然として黒美へ視線を向けるが、黒美は無表情で、いつもより冷たい雰囲気をまとっている。

☆☆☆

○学園、教室内(和室)。

夕方近く。
生徒全員が集められて座っている。

先生(女)「ここまで沢山のテストを頑張って来ましたね。料理、廊下掃除、お風呂の準備に、寝床の準備。どれも、大変な仕事です」

和子はそのどれもを黒美に負けていて、もう勝ち目はなかった。
1人うつむいて落ち込んでいる。

和子(みんなはここへ来る前からずっと花嫁修業をしてきた。だけど私は、神様の花嫁なんかになりたくないと反発して、ほとんどなにもしてこなかった。今更悔やんでも遅いけど、しっかり勉強をしていればこんなことにはならなかったのに……)

そのとき、里にいる水にかけられた言葉を思い出す。

水『無理だったら戻ってこい。俺がお前を花嫁にしてやるから』

ジワリと胸が熱くなる。
和子(勝ち目がないのはわかっているから、もういっそ里に戻ってしまおうか。きっとみんな受け入れてくれる……)
黒美「和子さん、どうしたの?」

小声で聞かれて我にかえる。
気がつけば教室の後方に神様たちが集まってきている。

黒美「最後のテストを見学に来られたのよ」
和子「わ、わかってる」

緊張で汗が流れる。
振り向いた和子に水神様が気がついて手をふるが、和子はすぐにうつむいてしまう。

和子(今までどのテストもダメだった。こんな姿を見られるなんて、恥ずかしい……)

先生(女)「それでは最後のテストです」

全員が私語をやめて緊張感が走る。

先生(女)「このテストでは、神様へ向けての愛情を自分なりに表現してもらいます。例えば華道、茶道、弓道。どんなことでもいいです。自分の得意なものに自分の感情を乗せて、届けてください」

先生の説明に教室内がざわめく。
みんな予期していなかったことのようだ。
けれど、花嫁候補たちはそれぞれに勉強してきたものがある。
和子には、なにもない。

☆☆
○学園、教室内(和室)。

40分後。
それぞれの得意分野が披露されている。
ある花嫁は舞をみせて、ある花嫁は和菓子を作って贈っている。
そのどれもが素晴らしくて和子はみんなの愛情表現を見ているうちにどんどん自信がなくなっていく。

そしてついに黒美の番になった。

黒美の周りには沢山の花が準備され、壮大な生け花を開始した。

和子(黒美さん、すごい集中力!)

黒美の周りだけ雰囲気が異なっている。
真剣な眼差しで生花をする黒美に話しかけれられる者はいなかった。

そして1時間後。
ようやくその花が生け終わった。

黒美「タイトルは、大きな優しさです」

黒美の前には色とりどりの花を使った生花。
生けなばの中でひときわ目立つのは水色の花で、それが水神様を差していることがわかる。
水色の花は他の花を優しく包み込むように配置されていた。

和子(すごい!)
先生(女)「素晴らしいですね。では次は和子さんの番です」

なんの準備もない和子はただ慌てる。

和子(自分にできることなんてなにもない。このままじゃ水神様まで笑われてしまうことになるかもしれないし、それならいっそ、ここでテストを辞退してしまったほうが……)
水神様「和子さん」
和子「は、はい!」
水神様「最後の採点は先生方ではなく。僕が行うようです。僕のために和子さんの気持ちを見せていただけませんか?」

優しい声色に逃げられなくなってしまう和子。
覚悟を決める。

和子「私にできることはなにもありません。みなさんと同じように花嫁候補として生まれてきたものの、神様の花嫁になんてなりたくなくて全然努力をしてこなかったからです」

話ながら徐々に緊張が解けていく。
しかし、周りの生徒たちは怪訝な目を和子へ向ける。

和子「友達の水はよく言っていました。神様は傲慢で自分勝手な連中だと」
女子生徒A「なんてことを言うの!?」

思わず憤怒する女子生徒Aを、まわりの生徒たちがなだめる。
しかしみんな同じように感じているのがわかる。

和子「私はそれを信じてしまいました。だから、花嫁修業もしてこなかったんです。だけどここに来て、水神様と接することになって、その気持がどんどん変化していきました。神様も様々だと思いますが、少なくとも水神様は傲慢でも、自分勝手でもないと。水神様はとても優しくて、それこそ黒美さんがさっき華道で表現された通り、優しく包み込んでくれるような方でした。けれど、それでも私はまだ甘えていたんです。黒美さんが遅れて入学してくるまでは」

一旦黒美と視線を合わせて、和子は小さく微笑む。

和子「黒美さんはなにもかもが完璧で、そこでようやく慌てました。花嫁候補というのは、ここまでできている子たちなのだと。そして自分を恥じて、今まで努力してこなかったことを後悔しました。きっと、水神様の花嫁としてふさわしいのは私ではなく、黒美さんです。だけど……それを承知した上で、まだ里へは帰りたくないと、今は思っています」

和子の声が一段高くなる。
最初はうつむき加減だったけれど、今は真っ直ぐに前を向いている。

和子「愛情表現をしろと言われても、私にはこうして自分の気持を素直に伝えることしかできない。それでも、私の、水神様への気持ちに変わりはありません。私、この学校へ来てよかった。水神様に出会えて、本当によかったと思っています!」

静まり返る教室内。

和子(きっと、呆れられてるんだ。みんなが花や舞、音楽で表現するのに、私にはなにもない。このテストも私が負けて、終わり……)

その時拍手の音が聞こえてくる。
視線の先には水神様の優しい笑顔。
それに釣られるようにして拍手が大きくなっていく。

黒美「あなたはすごいわ」
和子「え?」
黒美「私は自分の気持を言葉で伝えるなんて方法、思いもつかなかった。他のみんなも同じだと思います」
和子「私は、ただ……」
黒美「花嫁としての勉強はしてこなかったかもしれない。だけどその分、心が成長することができたんじゃないでしょうか?」
和子(どうして、そんな悲しそうな顔して言うの?)
黒美「最終テストは和子さんの勝ちよ。どれだけ技術を持っていたって、私には気持ちなんてないですもの」

黒美は誰にも聞こえない声で呟いて、そっと教室を後にしたのだった。

☆☆☆
○教室(和室)
黒美以外の生徒たちが座って総合の結果待ちをしている。

先生(女)「これからもテストは何度も行われます。今回は告知がありましたけれど、次回からは抜き打ちに変わります。1年間で10回テストを行い、その総合結果で花嫁を決定します」
和子(そういうテストだったんだ。てっきり今回のテストで全部決まるのかと思ってた)
先生(女)「では、最初に水神様の花嫁候補として今回の勝者を発表します」

和子は居住まいを正す。

先生(女)「勝者は……言わなくてもわかりますね。黒美さんです」

緊張感のない発表に拍子抜けする和子。

和子(当然だよね。私、全部黒美さんに負けてるんだもん)
先生(女)「ただ。最後のテストだけは和子さんの勝利でした」
和子「え?」
先生(女)「私は黒美さんの華道の方が好きでしたが、水神様があなたを選んだのです」
和子「水神様が、私を……?」

心臓がドクンッと高鳴る。

先生(女)「もしかしたたあなたは特別な花嫁になれるかもしれません。これからは努力を怠らずに、頑張るんですよ」
和子「は、はい!」
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