神様の花嫁候補になりました!?
第3話 ライバル
○水神様の庭園。

花の廻廊となっているところを和子と水神様が散歩をしている。

和子「このお屋敷には本当に色々なお花が咲いてるんですね!」
水神様「えぇ。睡蓮にポトスにガジュマル、他にも沢山あります。これらは水だけで育ってくれるので僕が育てるのに最適なんです」
和子「それにしては暑さや寒さも関係なく咲いているみたいですが……」

和子は冬咲きの花の前で立ち止まる。

水神様「ここでは四季は関係ありません。1年中、様々な花が咲いているんです」
和子「はぁ……」

和子は驚き、感心した様子で花々を見つめる。

水神様「ここは一応は学園内です。学園内にはこのような神様の邸宅が沢山あるのは、もうご存知ですよね?」
和子「はい。もちろん」

他の生徒たちもそれぞれ、自分の花婿さん候補と共に生活をしている。
それは最初の頃校長から説明されていたとおりだ。

水神様「学園内の生き物たちがイキイキをしているのは、様々な神様の力が与えられているからです」

だから池の金魚たちもあんなに元気なのかと納得する。
和子も、こころなしかここへ来てから体調がいい日が続いている気がする。

和子「ここってまるで天国なんですね」

驚く和子に水神様は一瞬目を見開いて、笑い出す。

和子「な、なにかおかしいことを言いましたか?」
水神様「いえ。和子さんの意見は全く正しいと思いまして、つい……」
和子「それにしても、神様ってみんないい人ばかりなんですね。びっくりしちゃいました」
水神様「他の神様にお合いしたのですか?」
和子「はい。実は昨日学校から戻るときに、弱姫さんのお迎えに来ている神様がいたんです」
水神様「あぁ。イワシ神様ですね。彼はずっと花嫁候補が来るのを心待ちにしていましたから、お迎えにあがったのでしょう」
和子「神様が花嫁候補を迎えにくるなんてって、みんな驚いてました」
水神様「そんなに驚くことですか?」

水神様はキョトンとしている。

水神様「なんなら僕も明日から迎えに行きますよ?」
和子「い、いいですいいです!」
和子(モデル級の水神様がお迎えになんてきたら、学園中の騒ぎになっちゃう!)

ブンブンと手と首をふって全力で固辞する和子。

水神様「それにしても、和子さんは少し私達に対しての評価が低かったようですね?」
和子「す、すみません。友人らが私に嘘を吹き込んでいたようで」

慌てる和子。

水神様「それはきっと、和子さんにずっとそばにいてほしくてついた嘘でしょう」
和子「え?」
水神様「さ、そろそろ家の中に戻りましょう」

☆☆☆

○水神様の邸宅内。

一週間後の朝。
台所で朝食を作っている和子の元に水神様がやってくる。

和子「おはようございます。もうすぐ朝食ができますので待っていてください」

最初の頃は敬語も使っていなかった和子だけれど、ここ最近では神様への誤解も解けてきて、敬語を使うようになっていた。

水神様「おはようございます。和子さん、ついさっき龍神校長から連絡が入りました。急で悪いけれど、今日の午前中学園に顔を出してほしいとのことです」
和子「校長先生から?」

和子は菜箸を取り落してしまいそうに動揺する。

和子「わ、私なにかやらかしましたっけ……?」
和子(ここへ来てから失敗続きだから、嫌な予感しかしないよぉ!)
水神様「それは、私にもちょっとわかりません」

水神様は困った表情で首をひねる。

☆☆☆

○学園の校長室。

ワインレッドのカーペットの上に立つ和子。
革張りの黒いソファに座る校長先生。
そしてもう1人、和子の隣に立つ見知らぬ美少女がいた。

校長「遅れましたが、水神様のもう1人の花嫁候補である、黒美(こくび)さんです」

紹介されて隣の少女が頭を下げる。
腰まであるつややかな黒髪。
黒い和服には金色で出目金の刺繍がされている。

黒美「はじめまして。黒美と申します」

黒美の声は凛として涼やか。
所作がとても美しく、動くたびに光を放っているように見える。

和子「は、はじめまして……」
校長「黒美さんは今まで勉学のために別の学校に通っておられて、昨日ようやく戻ってこられました。これからは2人で仲良く、頑張るんですよ」
和子(2人で仲良くって、嘘でしょー!?)

☆☆☆

○水神様の邸宅。

和室の中、和子と黒美が並んで座り、その前に水神様が座っている。
もう1人の花嫁候補である黒美を見て驚いている水神様。

黒美「どうしても学びたい勉学のため、これまで遅くなってしまいました。これからは水神様の花嫁候補として恥ないよう、努力してまいります」

丁寧に頭を下げる黒美に水神様が慌てる。

水神様「お気になさらないでください。勉強とは、どんなことをしていたのですか?」
黒美「少し、世界のことを知ろうと思いました。花嫁候補と言えど、様々な教養も必要かと思いまして」
水神様「そうでしたか。それは、ご苦労さまでした」
黒美「いえ、水神様の花嫁になるためなら、どんな修行でもいたします」
水神様「そんなに堅苦しく考えないでください。じゃ、黒美さんの部屋へ案内しますね」
黒美「花嫁候補としてわたくし受け入れてくださり、幸せでございます」

和室から出ていく2人の後ろ姿を呆然と見つめる和子。
心がモヤモヤしている。

☆☆☆

○黒美の部屋の前の廊下

黒美の部屋の前で待機している和子。
遅れて来た黒美に屋敷のことを教えて欲しいと、水神様から言われているので、着替え終えるのを待っている。
障子に映る黒美の美しい体つきに和子までドキドキしてしまう。

障子が開き、動きやすい和服に着替えた黒美が出てくる。

和子(どんな服でも似合うのね……)
黒美「和子さん。どうかよろしくお願いします」

丁寧に頭を下げられて、慌ててお辞儀を返す。

和子「それじゃ、台所から案内しますね」

☆☆☆

○水神様の邸宅
内。
台所で黒美が手際よく料理をしている。

水神様「おや、黒美さんがお料理中でしたか。今日は疲れたでしょう。休んでくださって結構ですよ」
黒美「いえ。私は遅れて来ましたので、少しでも早く慣れる必要があります。それに、料理は大好きなんです」
水神様「そうですか。それは楽しみが増えました」

廊下を通りかかった2人の会話を和子が聞いて、そっとその場を後にする。

☆☆☆

○水神様の庭園。
夜。
金魚の池の前に座り込んでいる和子。
昼間のことを思い出している。

黒美は物覚えがよく、調味料の場所や掃除道具の場所などをすぐに覚えた。
その上料理上手で、湯加減も完璧。
自分がここへきたときとは大違いで落ち込んでいる。

和子「せっかく水神様のことを好きになったのに、このままじゃ正式な花嫁さんになんてなれないよ……」
水神様「そうですか?」
和子「うわぁ!?」

突然後ろから声をかけられて振り返ると、水神様が立っていた。

和子「水神様、どうしてここに!?」
水神様「屋敷内に和子さんの姿が見えないので、探しに来ました」
和子「ご、ごめんなさい!」
和子(役に立つどころか、心配までかけてしまうなんて!)

慌てて立ち上がる和子を、水神様が手を握って引き止める。

水神様「さっきの呟きですが、本心からですか?」
和子「……はい」

聞かれていたことが恥ずかしく、うつむく。

水神様「和子さんには和子さんのいいところがあります。だから自信を持ってください」
和子(どうしてそんなに優しくしてくれるんだろう。神様だから、別け隔てなく接してるだけかな? でも私、そんなこと言われたら期待しちゃう!)
水神様「どうしました?」
和子「な、なんでもありません」

☆☆☆

○水神様の邸宅

翌朝。
和室で黒美の作った朝食をかこむ3人。

和子(今日はちゃんと起きたのに。黒美さんに先を越されちゃった)
水神様「これは美味しいですね。なんという料理ですか?」
黒美「私の故郷に伝わる郷土料理です。山菜をシナシナになるまで塩漬けにして水洗いして、醤油を少し垂らすんです」
水神様「シンプルで素材の味もしっかりと残っていて、美味しいですね」

黒美へ微笑みかける水神様に和子の胸が痛む。

☆☆☆

○水神様の邸宅。
長い廊下の掃除をしている和子。

和子(水神様は神様なんだから、誰にでも優しいのは当たり前。私は私のやるべきことをしなきゃ)

いつもより丁寧に廊下を水拭きしていく。
もうすぐ終わるというとき、立ち上がった瞬間よろけてしまって、障子に穴が空いてしまう。

和子「あっ!」
水神様「大丈夫ですか!?」
和子「ご、ごめんなさい!」
水神様「障子は張り替えれば大丈夫です。和子さん、怪我はないですか?」
和子「……大丈夫です。本当に、ごめんなさい」

なにをしてもうまく行かず、どんどん落ち込んでいく。

☆☆☆

○水神様の邸宅。

1人で障子を貼り直している和子の元へ黒美がやってくる。

黒美「私もお手伝いさせてください」

和子の隣に座って張替えを手伝い始める黒美に、和子はなにか嫌味を言われるのではないかと警戒してしまう。
しかし、黒美は黙々と手伝ってくれている。

和子「あの……」
黒美「はい。なんでしょう?」
和子「ありがとう。手伝ってくれて」

黒美は美しく微笑む。

黒美「いえ。私にできるのは、これくらいのことだけですから」

☆☆☆

○水神様の邸宅の和子の部屋

夜。
和子は自分の部屋で布団に入っている。

和子(昼間の黒美さんの言葉。まるで自分にはなんの取り柄もない、みたいな言い方だった。あんなになんでもできる人なのに、どうして?)

心がモヤモヤしてきて寝付けない。

和子(とにかく、私も黒美さんに負けないように頑張らなきゃ!)

水神様に握りしめられた手を、ギュッと胸の前で抱きしめて、目をつむる。

☆☆☆
○水神様の邸宅、台所。

翌日の朝。
黒美よりも早く起きて朝食を作っている和子。

黒美「おはようございます。和子さん」
和子「お、おはよう」
黒美「私も手伝いますね」

手際よく皿の準備を始める黒美。
負けまいと料理を作る和子。

和子(黒美さんには負けたくない。だけど……)
和子「……黒美さんはすごいですね」
黒美「え?」
和子「物覚えもいいし、手際もいいし。優しいし」

黒美はなぜか切なげに視線を落とす。

黒美「いいえ。私はただそのようになるために育てられた、機械みたいなものですから」
和子「え?」

和子が驚いて視線を向けたときにはもう、黒美はいつもの笑顔に戻っている。
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