Fortunate Link―ツキの守り手―




声にならない衝撃が全身を貫いた。




俺は目を剥いて、自分の胸元を見下ろした。

真ん中よりわずかに左にズレた位置。


そこに、嘘のように、真っ直ぐ垂直に、鋭利な刃物が突き立っていた。

あまりに唐突過ぎて。

まるで現実感のない光景で。

自分の身なのに、他人のそれを見ているかのような…。


(……な…ん…で…?)

疑問符がぐるぐると頭の中で回り出す。


なんで白石さんがこんなことをするのか。

なんでこんな凶器を持っているのか、とか。

他にもいろいろと意味が分からなさすぎて。


愕然と腕の中の、相手を見る。


白石さんは顔を上げ、淡々とこちらを見ていた。

涙に濡れたその目は、深海よりも昏く、氷よりも冷たく。

悪戯っぽく笑ったり、膨れてみせたり、ころころと色んな色に変える、あの表情はもうそこに無かった。


ズリュッッ


白石さんは体を離すとともに、躊躇いなく一気に刺したそれを引き抜く。


「………う」

雷に打たれたような痛みが全身を走った。


その衝撃に、体がのけぞる。

後ろのめりにゆっくり倒れていく。


スローモーションに景色が過ぎていく。


噴き出る血の赤が鮮やかで。

止めようもなく流れ出していく。


そんな……


(……俺は……死ぬ……のか?)


その絶望的なまでの赤を目にし、はっきりと自分の命の流出を自覚する。


今まで何度だって死ぬような目には遭ってきたというのに…。


それなのに……。

終わりってのは、こんなに呆気無いものなのか…?


目の前が急速に昏くなっていく。


沈むように堕ちていく、その意識の向こう側で、


ガダンッッ!!!

爆発音のような、扉が開け放たれる音が聞こえた。


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