うろ覚えの転生令嬢は勘違いで上司の恋を応援する

筋書きとモブの品格

 寮に帰ると、私は引き出しの鍵を開けて攻略本を取り出した。

 ジネットが塔に来る可能性が高まった以上、改めて今がゲームのどの辺りなのかが知りたいのだ。しかし、佳織はまだノアに会ったことが無いから彼のルートについては書けていない。

 ノアルートについて佳織が何を言っていたか思い出そうにも、「だからディラノアだって!ノアディラじゃないのに!」と怒っていた姿を思い出してしまう。

 仕方がないので、ストーリー全体をおさらいすることにした。

 このゲームの主人公ジネットは人々の憧れの職業・王立図書館の司書で、彼女は建国祭の準備に奮闘する中、魅力的な攻略対象との恋が始まる。物語のフィナーレは建国祭の最終日。

 最終日にはエルランジェ家が討伐した魔術集団の残党と貴族派、そして彼らに唆された第六王子が暗躍するのだが、ジネットと攻略対象たちが力を合わせて立ち向かい王国の平和を守ってエンドを迎えるのだ。

 従ってノアルートが始まっているのであれば、最終局面に向けてヒロインの接近が増えてくるはず。まさか聖女に認定されれば塔に入れるようエドワール王子たちに根回ししていたとは……。

 ノアルートでのハワード侯爵とジネットの闘いってどうなるのかな?

 ハッピーエンドならノアとヒロインがくっついちゃうのよねきっと。
 それに、バッドエンドは言わずもがな残酷な結末なのよね?

 どちらにしても侯爵が報われそうにない。

 でも、そのシナリオを改変できる可能性はある。

 ゲームでは死んでいるシエナ()が生きているんだから、候爵とノアが幸せになれる可能性もあるはず。

 蘇ったモブの底力で侯爵を幸せにせねば!

 ……しかし、侯爵やジネットのみならずエドワール王子にまで好意を寄せられているノアって本当に魔性の男だな。

 それとも、私が生き残ったせいでこのゲームの筋書きがノア中心に変わったのだろうか……そんなわけないよね。メンズのノアが中心になれば乙女ゲームとしてのアイデンティティが失われてしまうもの。ノアの愛され上手はヒロイン以上かもしれないが。

 兎にも角にも、筋書きが攻略本に書いてることからズレている以上、今後は他のキャラクターの動きにも注意を払っておこう。

×××

 翌朝、塔に向かっていると馴染のある人物を見つけた。
 声をかけると、官僚の服を着た青年がこちらに向かって手を振る。

「フェレメレンさん!最近全く姿を見なかったから心配しましたよ」
「ご無沙汰しております。急な異動でしたのでご挨拶できず申し訳ございません」

 王立図書館の常連のジェラルド・ロッシュ様。

 深緑色の髪に銀色の瞳を持つ彼は絵に描いたような好青年で、本の趣味も合うからよくお話をしていた方だ。
 初めて出会ったときは、そこはかとなく雰囲気がある彼は登場人物だと思っていた。でも攻略本には記されていなかったのでオーラはあるのにモブらしい。

 雰囲気があり、且つ物語を破壊しない人物。

 彼こそがモブの鑑だろう。それに比べて私と言ったら、シナリオを破壊しまくっているからバグに等しい厄介なモブよね。

 ハワード侯爵とノアの事だけ、二人の恋を守ることだけにシナリオ・クラッシャーとしての力を発揮しよう。
 その他は物語が円滑に進むように徹してモブの品格を磨けばよい。

 全ては、司書であり続けるために!

「図書塔に……配属になったのですね」
「ええ、色々とありまして……」
「お身体は大丈夫ですか?」
「だっ大丈夫です?!」

 ロッシュ様の手が、私の肩に触れる。突然のことで驚いたが、図書塔が過酷なのを知って気遣ってくれたのが嬉しい。

 でも、私よりもロッシュ様の方が具合が悪そうだ。なんだかやつれているように見える。

 建国祭の準備期間はどこも忙しいし、休む暇もないのだろう。そうだ、疲れている時には甘いものが良いのよね?

 私はバスケットからフィナンシェを取り出してロッシュ様に渡す。

「よろしければ、これを受け取っていただけますか?」
「美味しそうですね、ありがとうございます」
「私よりもロッシュ様の方がお疲れのように見えますよ。疲れた時には甘い物が良いそうです。早く元気になってくださいね」

 ロッシュ様はふわりと微笑んだ。

「今ので元気になれましたよ」

 そう言って彼は王宮の方へと消えていった。

 久しぶりに会えて嬉しかったが、なぜ彼はこの辺りに居たのだろう?
 図書塔があるのは王宮の外れで、そうそう人が来ない場所である。

 もしかして……方向音痴で間違えてきちゃった?
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