溺愛銃弾〜ベビーメタル・ソリッド~
夕方6時を過ぎて、『高速で事故渋滞に巻き込まれてねぇ。あの組長はやっぱり殺すよ』と、陶史郎さんから楽しそうに電話があった。その人のせいじゃないのに、とばっちりが行くのが気の毒だ。

7時ちょうどにお義母さんが呼びに来たときも、陶史郎さんは間に合わなかった。

着物が似合うお義母さんの後ろを歩き、妊婦用のワンピース姿で母屋の応接間へ。陶史郎さん抜きで支倉の来客と挨拶するのは初めてだった。

お義父さんが自分を紹介したら『宜しくお願い申し上げます』をしっかり言う。そこまではどうにか。向かいのソファに座ってた親子は、支倉組が属してる櫻秀(おうしゅう)会の別の組の人らしい。

一人は、仕立てが良さそうな三つ揃いを着た、品もあって顔も申し分ない渋めの紳士。もう一人は、グレーとブラウンを混ぜたような髪色をして、アイドルとかモデルでも通用しそうな美形男子。歳は25か6くらいで、自分とそう変わらなく見える。

「若がいつもノロケてますよ、目に入れて持ち歩きたい嫁だって」

息子さんがこっちのお腹に目を留め、綺麗に笑う。予定日を訊かれて答えれば、紳士なお父さんが自分の隣りに座るお義母さんに「初孫で楽しみでしょう」と仄かに笑んだ。

「・・・女じゃ跡目になりゃしないが」

上座の一人掛けソファに肘をついたお義父さんが代わりに冷笑したのを、耳は忘れない。もしかしたら一生。
< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop