18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

 女が誰なのかは、そのときはわからなかった。

 しかし、それは突然にやって来たのだった。


「遥、お前の母になる人だ。美景さんだよ」

 どくんと激しく鼓動が鳴った。


 その名前を遥は聞いたことがあった。

 母が『あの女』と言っていた女性のことだと、すぐにわかった。


「はじめまして、遥くん。どうぞよろしくね」


 微笑む表情が可愛らしい、優しげな女性だった。

 一点の曇りもない、まぶしいほどの、笑顔だった。


 遥は全身に鳥肌が立った。


「美景さんはお前の母とも知り合いでね。昔、よく世話になっていた。こうなってしまってお前のことを心配してくれて……」


 遥の耳に父の言葉はひとつも入ってこなかった。

 ただ、彼の心の奥底からは憎悪がもくもくと膨れ上がっていた。


 おかあさんを、くるしめた、おんなだ。


「結婚式は控えようと思う。親しい人を招待して、家でお披露目するくらいでいいかな」

「ええ、私は構わないけど」


 ふたりが今後の計画を話している中、遥は目の前が闇に包まれたように真っ暗だった。

 彼らの楽しそうな声が、酷く耳障りに感じた。

 幼な心にも遥にはわかった。


 おかあさんが、しんだから。

 このおんなが、きた。


 遥はあの気難しい祖父が許すはずがないと思ったのに、祖父はその頃から急に大人しくなり、ふたりの結婚に異議を唱えなかった。

 お母さんのときはあんなに酷い仕打ちをしたくせに、と遥は悔しさに涙を堪えた。


< 404 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop