18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~
女が誰なのかは、そのときはわからなかった。
しかし、それは突然にやって来たのだった。
「遥、お前の母になる人だ。美景さんだよ」
どくんと激しく鼓動が鳴った。
その名前を遥は聞いたことがあった。
母が『あの女』と言っていた女性のことだと、すぐにわかった。
「はじめまして、遥くん。どうぞよろしくね」
微笑む表情が可愛らしい、優しげな女性だった。
一点の曇りもない、まぶしいほどの、笑顔だった。
遥は全身に鳥肌が立った。
「美景さんはお前の母とも知り合いでね。昔、よく世話になっていた。こうなってしまってお前のことを心配してくれて……」
遥の耳に父の言葉はひとつも入ってこなかった。
ただ、彼の心の奥底からは憎悪がもくもくと膨れ上がっていた。
おかあさんを、くるしめた、おんなだ。
「結婚式は控えようと思う。親しい人を招待して、家でお披露目するくらいでいいかな」
「ええ、私は構わないけど」
ふたりが今後の計画を話している中、遥は目の前が闇に包まれたように真っ暗だった。
彼らの楽しそうな声が、酷く耳障りに感じた。
幼な心にも遥にはわかった。
おかあさんが、しんだから。
このおんなが、きた。
遥はあの気難しい祖父が許すはずがないと思ったのに、祖父はその頃から急に大人しくなり、ふたりの結婚に異議を唱えなかった。
お母さんのときはあんなに酷い仕打ちをしたくせに、と遥は悔しさに涙を堪えた。