18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

 遥が中学生になった頃、弟の奏太(かなた)が生まれた。

 静寂のようにひそやかな空気をまとった家は、弟の誕生で騒がしくなった。

 父も美景も周囲も、誰もが奏太に目を向けたことで、遥はわずかながら危機感を覚えた。

 母の言葉を思い出し、ひとり胸中で苦笑した。


「そういうことだったんだね、母さん」


 母が死ぬ間際に言った言葉。

 弱々しい声なのに、情念が込められているような力強い言葉だ。


 ――秋月家を継ぐのはあなたよ――


 母はおそらくこれを予期していたのだろう。

 この女の子供だけは、絶対に跡継ぎにしてはいけないと。


「おめでとうございます、美景さん」


 遥は満面の笑みで、弟を抱っこする美景に声をかけた。

 ほとんと話してくれない遥がお祝いの言葉をくれたと感激したのか、美景は嬉しそうに涙を流して「ありがとう、遥くん」と言った。


 なんと、あさましい女だろう。

 邪魔者を追い出し、妻の座を手に入れて、まんまとこの家の血筋を産んだのだ。

 しかし、この女の子供だけは、決して、秋月家の血筋として認めない。

 遥はひとり、憎悪の感情を抱きながら、笑顔で彼女に接したのだった。



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