3次元の王子様は元同級生を惚れさせたい
まさかこんなところで同級生に会えるなんて思っていなかったし、その同級生が、たまたま入ったカフェの店長なんてそんなこと普通あるか?


まさにドラマみたいな展開だ。


高校卒業以来だから会うのは実に7年ぶりくらい。


そんな俺の感動をよそに、小川はキョトンとした後、怪しいものを見るような目でこちらを見ている。


「まさか忘れたなんて言わないよな?俺だよ俺!」


トップアイドルのこの俺が、こんなオレオレ詐欺みたいなチープなセリフを言うハメになるとは……。


「……もしかして、中村?」


「そう!中村瞬(なかむらしゅん)!よかった〜忘れられてなくて」


口ではそう言ったものの、なんだかしっくりこない。


だって、冷静に考えて欲しい。

 
今彼女の店にいる俺は、ただの高校の同級生なんかじゃない。


今や日本で知らない人はいないと言っても過言ではないトップアイドルグループの1人なのだ。


さすがに反応が薄くないか?
 

そりゃあ、卒業して以来連絡も取っていなかったし、いや正確にはコイツのアカウントが急になくなったから連絡できなかったんだけど……。


それに俺は仕事が忙しくて同窓会とかも行けてなかったけども。


普通に日本で暮らしていれば俺の活躍なんて嫌でも目や耳から入っていたはず。


同級生の中村瞬と再会できた喜びがイマイチだったとしても、今をときめく超人気アイドル〝中村瞬〟が客として店に来ているのに、普通こんな落ち着いていられる訳がない。


「小川、俺が誰だか本当に分かってる?」


「いやだから中村でしょ?わかってるよ」


いやそうなんだけどな!?


そうじゃないんだよ!!!


俺は心の中で叫んだ。


落ち着け俺。


自分から芸能人アピールするなんて売れないやつのすることだ。 


CDを出せばミリオン連発、テレビで見ない日はない超人気アイドルのこの俺が、自らの口からそんなこと言うなんて絶対にプライドが、プライドがっ……。


「まさかとは思うけど、俺が今何してるか知らないわけじゃないよな……?」


しかし、残念ながらプライドよりも承認欲求に軍配が上がってしまった。
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