【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい

 顔を上げると真剣な表情が目に入る。ほんの少し眉を下げ、愛しい恋人が私を見ている。とりあえず状況を説明するつもりで口を開いた。

「熱があるみたいで。こっちに戻ってきたばっかりで、頼れる人がいないらしくて」

 そこまで言ってから、慌てて言葉を続けた。

「でも、私には関係ないので」

 内心を隠すように口角を無理やり上げる。私をじっと見下ろして、彼は静かに口を開いた。

「いいよ。行ってくるといい」

 怒るでも笑うでもなく、真面目な表情のまま賢人さんは続ける。

「君がとんでもないお人よしだってことくらい、わかってるよ」

 ズキリと胸に痛みが走った。

 突き放されたような気がして、急いで首を振る。

「行かないです。賢人さんと帰ります」

 訴えかけるように言うと、彼はため息をついた。

「そんな泣きそうな顔で言われても」

 苦笑を漏らし、端正な顔をわずかに綻ばせる。

「責めてるわけじゃないんだ。ここであいつのところに行かなくたって、和花は結局心の片隅であいつを心配するだろ。だったら行った方がいい。君の心に一点でも陰りがある状態は、俺としても好ましくない」

「でも……せっかく賢人さんと一緒にいられるのに」

 私の引き絞るような声に、彼は「ああ」と表情を崩した。

「言葉足らずだった。もちろん、君をひとりで行かせるわけないだろ」





< 77 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop