【極上溺愛】エリート鬼上司は無垢な彼女のすべてを奪いたい

 キッチンに立ちつくしたまま動けなかった。ふたりとも私の存在を忘れたように会話を続けている。

「なんだ、それ。あいつはぼうっとしてるから、助けてやんなきゃダメなんだよ」

「たしかにぼうっとしてる。だが、むやみやたらに手を伸ばすのは、もはや優しさじゃなくて押しつけだ。もちろん必要なら手は貸すが、俺はあの子の意思を尊重する」

 思いがけない言葉に呼吸を忘れた。はっきりと言い切る強くて優しい口調に胸がしびれる。

「……その余裕面、むかつく」

「お前と違って、俺は彼女を信じてるんでね」

 喉の奥が熱くなって、思わず目をつむった。

 瞼の裏に浮かぶみたいだ。

 賢人さんは今、すごく穏やかな顔をしているに違いない。

 いつだって優しくて頼りがいがある恋人から、私は守られてばかりいる存在だ。そればかりか賢人さんは私の気持ちを最優先で考えてくれる。

 じわじわと胸の奥から温かい感情があふれ出して止まらない。

 いますぐ駆けていって抱きつきたい衝動をどうにか堪え、器によそった卵粥とリンゴの蜂蜜煮をトレーに載せ、何気ないふうを装ってベッドルームに足を踏み入れた。
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