お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
だけど――フイと、勇運くんに顔を逸らされる。

避けられたのかと不安になったけど、そうじゃない。勇運くんの視線の先には、成希。

勇運くんに吹っ飛ばされていた成希は呻きながら立ち上がり、私たちを睨んでいた。


「ガキが、よくも……!」

「……」


勇運くんは、冷たく鋭い瞳で成希を見る。

そして――


「“世の中は強いもん勝ちで、弱いもんが悪い”? 人一倍弱いお前がイキがるな。

それに、三石は――


冬音は弱くない」


「っ!」


顔を歪め、忌々しそうに吐き捨てた勇運くん。その時、成希の不満に染まった顔が見えた。

だけど、それをもう「怖い」とは思わなくて……


――冬音は弱くない


「~っ」


今まで「恐怖」で流していた涙。それが途端に温かな温度へ変わり、私の心に優しく降り積もる。


「あり、がと……っ」


歯を食いしばりながら泣く私を見て、勇運くんの眉に力が入る。だけど険しい表情とは裏腹に、「ん」と穏やかな声が返ってきた。



その時。



廃墟の外で、パトカーのサイレン音が聞こえる。どうやら警察が到着したらしい。


「マル被、発見!」
「確保ー!!」
「現逮だ、現逮!!」


一気に慌ただしくなった廃墟。そして、とどろき続けるパトカーのサイレン音。

その音を聞いた時、私の意識があやふやになっていく。

だけど、目を瞑る直前、


「冬音ちゃん!」


遠くから、守人さんが私の名前を呼んだ気がした。

その声を、頭の奥で聞きながら……私は長かった「呪縛」から解き放たれたように、安心して眠りについた。
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