一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 生意気だと思われないだろうかと思いながら、由依は与田に切り出す。

「与田さん。読めなくても絵本は楽しめるんですよ。小さな赤ちゃんでも読み聞かせすると、目をキラキラさせて喜んでくれるんです。阿佐永さんの選んだものも、子どもたちに大人気なんです」

 与田を見ると、気を悪くした様子もなく、感心したように「へ〜。そうなんだ」と口にしていた。それを眺めていた大智も由依に続いた。

「そうだよ。知人の受け売りだが、寝る前に読み聞かせするだけで言葉の発達や情緒の安定に繋がるそうだ」

 大智の落ち着いた言葉に、佐倉も中村も与田と同じように「なるほどなぁ」などと呟いている。

「その通りです。それに、絵本って楽しいですよね。きっと大人になっても記憶に残る一冊ってあると思うんです」

 由依がそう言うと、真っ先に佐倉が口を開く。

「そういえばあるよな。ほら、なんだっけ? 二匹のネズミが大きな卵拾って……」

 タイトルが出てこないのか考える佐倉に、中村が「あぁ! ぐりとぐら!」と先に答えた。

「そうそう。あれ、よく読んだなぁ。カステラがうまそうでさぁ」
「わかります。小さな子たちは食べる真似してますよ」

 園児たちの楽しそうな顔を思い浮かべながら由依が佐倉に言うと、今度は中村が話し出す。

「俺はあれ。カラスのパン屋さん、だっけ? 面白いパン眺めるの好きだったな。与田は? なんかある?」
「俺? そうだなぁ……。あ、猫がたくさん出てきて、でっかい魚食べるやつ!」

 それに、皆が「11ぴきのねこ!」と声を揃えたあと顔を見合わせて笑い合う。それぞれが童心に返ったような、そんな笑顔だ。

「あの話読んでさ。猫になって冒険してみたいって思ってたわ。懐かしいな〜」

 しみじみと言う与田に「お前らしい」と中村は笑ってから隣を向く。

「大智は? 絵本読んでるところ想像できないけど。なんか子どもの頃から難しい本読んでそう」

 大智は「そんはことないよ」と苦笑いを浮かべていた。
< 12 / 253 >

この作品をシェア

pagetop