一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「今日からこちらで一緒に働く、瀬奈由依と申します。よろしくお願いします」

 職場としては二箇所目で、こんな挨拶をするのはずいぶんと久しぶりだ。緊張で声が裏返りそうになりながら、集まった同僚たちに挨拶をした。
 定員は20人以下と言うこともあり、保育士の数は少ない。けれど皆、松永先生自身が声を掛けた人たちで、和やかな雰囲気だった。

 ここは、三十五階建てのビルの二階の陽当たりの良い一角にある。一階には大きな書店とカフェが入っていて、二階以上は有名企業の本社や関連会社の他、様々な企業が入っている。
 企業の福利厚生を目的として開園したため、通っているのは親がこのビル内に勤務している子たちだ。育児休業が明けたが、自宅近くの園に空きがなくここに通わせている人が多いせいか、途中入園しづらい小さな子どもが多い。あとは一時預かりもしていて、前の園とはかなり様子が違っていた。

(灯希は今頃、何してるのかなぁ……)

 保育室で遊ぶ灯希と同じくらいの年齢の子どもを見て思う。

「お母さんも頑張るね」

 息子の顔を思い出しながら小さく呟やいた。

 愛おしくて何にも代え難い宝物。
 それを自分に与えてくれた彼に、感謝の気持ちを直接伝えることはできないけれど、これからも忘れることはないだろう。
 今でもずっと、自分の心の中には彼が住み続けているのだから。
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