一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 館内は正午を過ぎたこともあり、人は減りゆったりとした空気になっていた。遠くに子どもを抱き抱えた父親と、寄り添うように歩く母親が楽しそうに水槽を見ている姿が見えた。仲睦まじい親子の光景に、自分たちも周りからそんな風に見られていたのだろうかと思ってしまう。
 大智も同じ親子が目に入ったのか、遠くに視線を送っていた。

「僕は……普通の親子とはどんなものか、あまりわかっていないんだ。父は忙しい人だったから一緒に出かけた記憶もなくて」

 大智は淡々とした声でポツリと言った。その表情にはなんの色も浮かんでいない。悲しいとか寂しいとか、そんなものはとうの昔に忘れ去ったような表情だった。

「さっきの大智さんは……ちゃんと父親に見えました。園にお迎えに来るお父さんとなんら変わらなかったです」

 もちろん保育園に全く迎えに来ない父親もいる。それが悪いわけではない。仕事の都合でどうしても迎えに来れない人もいるのだから。けれどそんな人でも行事には参加して、子どもの成長を見て喜んでいる人がほとんどだ。大智だって、そんな父親と同じようになりそうに思えた。
 大智は由依に向くと表情を緩めて「ありがとう」と口にする。それが大智にとって喜ばしいことなのか、由依にはわからなかった。
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