一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
三章 絡まり始めた糸
 夏を思わせる気温が続いても、日差しは柔らかくなっているのを感じる。そうしているうちに秋は深まり、気がつけば大智と別れてから一か月が過ぎていた。

 最初こそ思い出すたび心が痛んだ。彼はあのあと、あの番号に電話しただろうか。そして嘘を教えられたことをどう思っただろうか。いや、会ったばかりの自分に騙されたところでなんの痛手にもなっていないだろう。そうなってくれていたほうがいい。ほんの束の間を過ごした相手のことなど忘れて欲しい。そう自分に言い聞かせていた。

 あの日、もう会わないと決めたことは後悔していない。
 もし二度三度と会ってしまえば、彼自身に温もりを求めてしまいそうで怖かった。そして彼は、自分の願いを叶えてくれようとするだろう。けれど、いくら今は結婚できないにしても、この先はわからない。いざ誰かと結婚を考えたとき、もう子どもがいるなんて、許される話ではないのだから。


「あっ、瀬奈先生。珍しいね」

 一人ぼんやりと過ごしていた休憩室に、給食のトレーを持って現れたのは、二歳児クラス担当の先輩保育士だった。

「松永先生。お疲れ様です」

 会釈を返し卓上にあった自分のトレーを動かした。
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