たゆたう、三角関係
「俺晴人に言ってないんだよね」
「何を?」
「金子さんのこと」

ふと藤くんの顔の傾きが変わる。藤くんって近くで見ても顔キレイだなと思った。

藤くんが私の唇を見て、もう一度私の目を見て、また唇を見る。藤くんの手が私の腕を抑える。鼻が当たらないようにしながら、ゆっくりとその顔が近づいてきた。

ふと触れる直前で「いい?」と聞いてきた。頷くと、彼はわざと鼻と鼻を擦らせて、私を少し焦れさせて、それから唇を重ねる。

すごく丁寧で優しくてあっさりとしていた。

一度唇は離れたけど、藤くんは私の髪を撫でながらまたキスを重ねた。

あんなに可愛いと思っていた藤くんが、急に男の人の顔をする。こんな風に触るんだ、と気付いた。今まで手を繋いでもどこか友達感覚があった気がしたのに、一気に薄い壁を破ってきてくれたような気がした。

藤くんの硬い体が、硬い腕が私を抱き寄せる。苦しくて、その力が強くて驚いた。

「待って」

思わず私は口走っていた。

「うん」

やっと藤くんは顔を離す。

「俺も晴人に言うよ」

そう言うと彼はフラフラと立ち上がる。
その言葉はつまり、藤くんが晴人に言うまで私たちはこれ以上近づけないのかな、とも思った。

別々のベッドに寝て夜を過ごした。
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