新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
何で、此処に高橋さんは居るの?
ミサさんが、もう帰ったから?
明良さんから、何か聞いたから?
それとも、自分の意思で此処に来たの?
ミサさんとのことを、説明してくれるの?
どんな言い訳をするの?
高橋さんの表情からは、何も見出すことが出来ない。
「キーケース、ありがとう」
「えっ? あっ、いえ……」
意表を突かれて、高橋さんを見上げた。
「とにかく、風邪ひくから早く着替えないと」
あっ……。
高橋さんは、全身濡れている私の左肩をお構いなしに抱くと、そのままマンションの方へといざなった。
濡れちゃうのに……高橋さん。
程なくマンションに着き、鍵を開けて部屋に入ろうとしたが、高橋さんはどうするんだろうと思い、高橋さんを見上げた。
「寒いだろうから、シャワーを浴びて落ち着くまで車で待ってるから」
「あ、あの……」
話す間もなく、玄関のドアを高橋さんが閉めてしまった。
何だか……結局、高橋さんのペースになっている。
急いで服を脱ぎながら、そう感じていた。
でも……何のために来たのだろう? ミサさんとのことを言い訳するため? それとも、深い意味があるとでも? いくら此処で想像していても、高橋さんが話してくれなければ分からないこと。 真相を聞くべきか、否か。 無理に聞くのは、やはりやめた方がいいのかな。 
高橋さんが会う相手に対して私が咎めるなんて、そんな権利もないし気が引ける。
ああ……どうしていいのか分からない。
消し去りたい先ほどの記憶と苛立ちから、勢いよく頭から熱いシャワーを浴びた。
髪の毛を乾かして着替えを終えると、急いでコートを羽織って高橋さんの車に向かった。 聞くべきか、否かの結論は出ないまま……。

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