新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
「そうだ」
嘘。
そ、そんなこと、急に言われても困る。
「そうですか。 何とか頑張ってみますが、またどうしてそんな急に?」
「北海道支社で、インフルエンザが大流行しているらしい。 それで、経理の人間も罹ってしまって大変みたいなんだ。 決算で仕事をしたくても、出社出来ないから滞っている。 それで当初の話では処理を手伝いに行く予定だったんだが、何時また誰が休むかも分からない状態だと、何度も応援要請を掛けられてもこっちも予定が立たなくなってくる。 だから、もう面倒だから仮締めして来ることにした」
「何度も応援要請を掛けられても、それも大変ですよね。 結局、お鉢はこっちに回って来るわけですから」
「だから中原。 その間、頼むな。 矢島さんも来週の木曜、金曜はそういうことだから、2泊3日の仮払いを出しておいてくれ。 頼むな」
「は、はい」
いきなり言われて、どうしよう。 でも、北海道支社の人達も大変だと思うから……断れない。 仕事と割り切って、行くしかない。
だけど、高橋さんと一緒に出張に行くなんて思ってもみなかった。 こんな状態で……。
嬉しいと言えば嬉しいけれど、どう接していいか分からない。 勿論、仕事は仕事としてやるしかない。 でも3日も一緒に高橋さんと居ることを想像すると、緊張してしまう。
だからといって、変に構えても仕方がない。 今から緊張していて、どうするのよ。
そんなことばかり考えながら決算月の忙しさのまっただ中、あっという間に木曜日になってしまった。
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