新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜

北の国で

木曜日は、 朝一番の飛行機で北海道へと飛んだ。
いくら暖冬とはいえ、 やはり北海道の冬の寒さは想像していた以上だったが、 部屋の中は暖かいので空港ではそんなに寒さは感じなかった。
そう……私は北海道は初めてだった。 高橋さんは出張で何度か来た事はあるらしかったが。
昨日の夜は、 何だかドキドキして遠足の前の晩のような興奮の仕方で殆ど眠れず朝を迎え、 寝過ごしてはいけないと思ってそのまま空港まで来た感じだった。
でも、 朝から高橋さんと一緒で睡眠不足の疲れなど何処かにいってしまい、 緊張の連続で休まる暇もない。
北海道支社までは、 事情が事情なだけに迎えの車も頼まずに自分達で支社まで行くからと事前に伝えてあったらしく、 空港から電車を乗り継ぎ支社に到着すると、 挨拶もそこそこに直ぐさま仕事に取り掛かった。
確かに、 本当に事務所内にあまり人がいない。 本社にいる私にとってはそう見えるのかもしれないが、 それにしても閑散としているように感じられる。
「これコピーして、 付箋が貼ってあるところまで電卓入れて」
「はい」
仕事をしている時の高橋さんは、 やっぱり格好いい。 張り詰めた空気の中で、 背筋がピンとする感じがする。
限られた時間の中で全てをこなしていかなければならないので、 お昼休みも高橋さんは食べ終わると直ぐ事務所に戻っていってしまった。 慌てて後を追うようにして、 途中だったが食事を終えて顔の突貫工事を適当に済ませてから席に戻って書類と格闘した。 少しでも、 高橋さんの役に立ちたくて……。 勿論、 北海道支社のためにというが大前提ではあるけれど、 やはり高橋さんの役に少しでも立ちたいと思うのが女心だったりもする。
初日は、 大まかな概算を出しただけなのに、 すでに18時を過ぎている。 明日までに、 終わるのだろうか?  
一抹の不安もあったが、 きっとそこは高橋さんの事だからきっちり終わらせられるんだろうなと、 何故か勝手に安心していた。
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