新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜

Self-Control

出張中に中原さんが頑張ってくれていたお陰で、 思っていた以上に書類の山は山脈とまでは積み上がってはいなかった。
それでも毎日じわじわと忙しくなり、 帰る時間も20時以降になっていった。
まゆみとのお茶の時間も4月中旬ぐらいまではもう無理なので、 その間は中止にしてもらう事にして出張での経緯はメールと夜の電話で説明していた。
そして、 他の所属の仮締めが始まった3月末。 来週で今月は終わってしまう。 相変わらず高橋さんはフル回転で忙しくて席に居る時間も殆ど就業時間中はなく、 残業時間になってやっと落ち着いて席に着いて仕事をしている事が多くなっていた。
高橋さんの体が心配だな。 あんなに忙しくて、 大丈夫なんだろうか?
その日の会議がほぼ終わる17時過ぎからでないと、 本腰を入れてデスクに向かえない高橋さんは、 戻ってくると捺印の山をまずは片付けていた。
中原さんもそんな高橋さんを手伝って、 最近ではだいぶ仕事をテキパキこなしている。
私は書類の内容計算に追われていたが、 ここ数日どうも電卓の切れが悪く何度やっても合わない。 それと同時に、 目が霞んで数字が見づらくなっている。
疲れ目かな?
そんな感じで最近はあまり捗らない仕事を、 それなりにこなして家路に着いていた。
そして、 週末の金曜日を迎えた今日も、 慌ただしく電卓を叩いて午前中を終えて遅いランチを社食で取ろうとしたが、 何だかあまり食べたくない。
そう言えば……最近あまり食欲もないし、 家に帰ってからも殆どスープやお茶を飲むぐらいで、 あとはお風呂に入って寝るだけだった。
惰性でうどんだけをトレーにのせて空いている席に座ると、 重い身体をどっと椅子の背もたれに寄り掛からせた。
はあ……。
無意識に出る溜息と引き換えに、 ひと口だけうどんを口に運んだが、 何だかもういらなくなっていた。
出張先で言ってくれた、 高橋さんのひと言。
『 時間をくれないか…… 』
あのひと言が、 いつも脳裏を掠める。
人間という生き物は、 何て愚かなんだろう。
ひとつの事をクリア出来ると、 またそれ以上のものを望んでしまう。
今の私がまさしくそれだった。
いったい、 いつまで待っていればいいのだろう?
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