ファーレンハイト番外編 / おにぎり派の忠告
「砂糖二本とミルク二つ、だったよね?」

 そう言いながら、玲緒奈(れおな)さんは俺の前にコーヒーカップを置いた。湯気と共に立ち上る香りが鼻腔をくすぐる。

「ありがとうございます」
「いいのよー」

 玲緒奈さんは俺の後ろを通り過ぎ、昭和感あふれる座卓コーナーに座った。
 捜査員用のマンションでは長机を並べてテーブル代わりにしているが、相澤さんが味噌汁を溢して書類にぶちまけたから食事は座卓で食べるようにしている。

 座卓にある鎌倉彫の菓子盆は松永敬志さんの結婚式の引き出物で、松永さんが何度捨てても気づくと手元に戻って来ているという、松永さんラブな菓子盆だ。

 その菓子盆からベランダの窓へ目線を動かした。
 窓の外は快晴で、雲一つない青空が広がっていた。冬の寒さなど微塵も感じさせないような天気だ。暖房の効いた部屋の中だが、この暖かな陽射しもあって心地良く感じられる。今日も穏やかで平和な一日になりそうな予感がした。


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